学校に行かないと決めた、12歳の哲学者が教えてくれること |
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2020年05月07日
企業立学校10 ダイソン工科大学
あのダイソンも学校を作っているのです。「人こそ全て」は洋の東西を問わず同じ。特にイノベーションこそ強みであるダイソンのような企業では、最重要課題でしょう。グローバル人材募集上、最強の企業であるように思いますが、現大学のの教育では物足りないということでしょうか。アングロサクソン系のエンジニア忌避もありそうです。
「吸引力の変わらないただ一つの掃除機」のキャッチコピーで知られるイギリスのダイソン。主力のサイクロン式掃除機のみならず、「羽根のない扇風機」や「穴の空いたドライヤー」から、最新の「勝手に髪が巻き付くヘアアイロン」まで、ユニークな家電製品を次々と打ち出してきた。
ダイソンが手がける製品はどれも、何年間も技術革新が起きていないような日用品だ。誰もがすでに1つは持っているものだけに、市場も成熟している。ここに、市場平均よりも何倍も高価格の製品を投入するのがダイソン流ビジネスだ。2016年に発売したドライヤーは平均価格の10倍近い約5万円。最新のスティック型掃除機「V10」は10万円近いモデルもある。
ヒットを出すのは難しい環境のはずだが、売上高は1993年の創業以来、右肩上がりで推移している。直近の2017年の売上高は対前年比4割増の35億ポンド(約5110億円)。EBITDA(償却前営業利益)は同27%増の8億100万ポンド(約1183億円)と飛躍が続いている。高価でも消費者がダイソン製品を選ぶのは、その機能やデザインに革新性を見出すからだろう。
エンジニアの平均年齢は26~27歳
では、なぜダイソンは革新的な製品を出し続けることができるのか。『週刊東洋経済』1月12日号(1月7日発売)では、ダイソンが持つ3つのコア技術からその秘密を解き明かしている(発明王ダイソン、「強さ」の秘密)。だが、秘密は他にもある。それは、開発の最前線に立つエンジニアの年齢がとにかく若いことだ。
2018年10月に発売された新製品のヘアアイロン、「エアラップ」の開発を率いたのも20代後半の女性だ。「センサーで毎秒40回も温度の調節を行うため、髪が過度な熱にさらされることはありません」。日本で行われた記者発表会で、自身の髪の毛をカールさせる実演も交えた完璧なプレゼンテーションを行ったのが、アドバンスト・インサイト・エンジニアのヴェロニカ・アラニスさんだ。
ヴェロニカさんはスコットランドのエディンバラ工科大学でデザイン関連の修士号を取得し、2回目の転職で2016年にダイソンへ入社した。すでに決まっていた「エアラップ」の開発プロジェクトに立ち上げ当初から関わり、開発中はシンガポールの研究開発拠点へ赴任し、最終エンジニアリングデザインに携わった。製品の開発が終了した現在は、イギリスで同製品の性能に関わるデータ解析のリーダーを任されているという。
大きな責任が伴うポジションだが、つらくはないのか。ヴェロニカさんいわく、「挑戦をさせてもらえる一方で、それで疲れ果てるようなこともなく、とてもバランスが取れている」と余裕の表情。今後、結婚などの環境変化があっても「当然、このまま仕事をしたい」という。
ヴェロニカさんがダイソンのエンジニアの模範的存在であることは確かだが、かといって特異な存在ではなさそうだ。同じエアラップの発表会で参加者向け説明を担当したサム・バロース氏も2014年にダイソンに入社し、現在20代後半だが、2016年に発売されたドライヤーの開発中心メンバーとして活躍した実績を持つ。最新のコードレス型掃除機の開発に携わったサム・ツイスト氏も、2014年の入社後から、掃除機の性能の核となるモーター開発の中心となってきた。
ダイソン氏の強いこだわり
11月初旬に記者がシンガポールの研究開発拠点を訪れた際も、ラボに詰める顔触れは若々しい。同拠点で、エアラップの開発の一環で毛髪科学を研究してきた男性エンジニアに至っては、新卒でダイソン入社して10カ月目にすぎなかった(2018年11月時点)。イギリス本社の研究開発チームと連動して動き、同製品のために合計1800キロメートル分の毛髪を調査、その髪質やクセを解明するという、地道な活動を行ってきた。
若手エンジニアがこうも活躍している背景には、創業者であり、現在も全製品を世に送り出す最終判断を行っている、チーフ・エンジニアのジェイムズ・ダイソン氏の強いこだわりがある。
2018年に記者のインタビューに答えたダイソン氏は「人間は、若いほど創造性が豊かだ。たとえば学生と接していると、『そう来たか』とうなるような斬新な発想がたくさん出てくる。だからダイソンは、あえて(大学院卒や中途ではなく)新卒の学生を中心に採用している」と語る。一方で、「私は専門家が嫌いだ。何かを一からインプットする、まったく新しいアイデアを考えるといった柔軟性がないからだ」と手厳しい。
もちろん、若手エンジニアがいくら斬新な発想をしても、それが上司やセールスサイドの意見で角が取れたり、ボツになれば元も子もない。だが同社バイス・プレジデントのジョン・チャーチル氏は「エンジニアの間に年齢や立場による上下関係は存在しない」と断言する。開発の過程での失敗はむしろ推奨される。ヘア・ケアカテゴリの責任者、グレアム・マクファーソン氏は「失敗は変化を起こすために必要なものと考えている。管理職は、どうぞ失敗してください、というスタンスでいることが重要だ」と語る。エアラップの場合、約6年の開発期間でプロトタイプを650個も作ったという。
若手の発想力を武器にするダイソンにとって、何より重要なのは優秀な若手エンジニアの卵が育つこと。だが、イギリスにおいてエンジニア職の人気は低く、イギリス企業は毎年7000人近いエンジニアの不足を、海外での求人で補っている。そこでダイソン氏は、本社の敷地内に4年制大学まで作ってしまった。自身の財団とダイソンからの約32億円の出資をもとに、2017年に開学したのが「Dyson Institute of Engineering and Technology)」だ。日本語に訳すとすれば、ダイソン工科大学といったところか。
【2019年1月18日10時45分追記】初出時の大学名称「ダイソン工科大学(Dyson Institute of Technology)」を上記のように修正いたします。
最大の特徴は、初年度1万6000ポンド(約220万円)の給与を受け取りながら教育を受けられることだ。学生たちは、1~2年生のうちはエンジニアリングの基礎を、3~4年生になると電機・機械工学を中心としたプログラムを履修し、卒業すると学士号を得ることができる。それと並行して、授業期間中は週3日、学期外は週5日、エンジニアとして実際の業務に従事することになる。勤務地はイギリス本社のみならず、研究開発拠点のあるシンガポールや、電気自動車(2021年発売予定)の極秘開発が進められているイギリス・ハラビントンのオフィスで働く機会もあるという。
若手開発者がイノベーションの源泉に
このプログラムは一躍話題を呼び、2017年9月からの第1期生には25人の定員に850人の応募者が殺到した。中にはケンブリッジなどの一流大学を蹴って入学した学生もいる。大学設立の目的はエンジニア不足という社会問題を解決することであり、卒業生はダイソンに入社する義務はない。ただこれにより同社の開発現場がさらに刺激されていることは確かだ。そしてもちろん、開発が若手のみで成り立っているわけではない。商品を完成へ導くうえでは、ベテラン陣の経験と知識がものをいう。
「下積み期間」を設けず、フレッシュな感覚や仕事への貪欲さをイノベーションの源泉として活用できる企業風土。この重要性を理解していたとしても実行できている企業は、少なくとも日本の大手では少ないのが現状だ。ダイソンが製品の斬新さで他社を凌駕する理由の1つはここにある。
投稿者 hoiku : 2020年05月07日 TweetList
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