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2008年04月15日

学校ってどうなってるの?56『世界國尽』(せかいくにづくし)

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明治初期の教科書は今からするとずいぶん難しそうです。
ただ江戸時代の寺子屋以来の教科書を範とした、読み書きだけでなく暗唱することを目的としたものが、ありました。当時の小学生みんなが暗唱したという「世界國尽」を紹介したいと思います。

まずは
明治のはじめに学制によって全国民の小学校就学が定められたが、発布当時はまだ教科書が整備されていなかったため、民間で出版された啓蒙書や翻訳書が各教科の教科書として用いられた。
「小学教則」に示された標準教科書のなかから、主なものを以下に挙げる。なお、それぞれに等級と教科名を記したが、当時の小学は、下等小学(半年毎に下級の8級から上級の1級まで4年間)と上等小学(同4年間)の8年制であった。

「小学教則」に示された小学校用の教科書は、民間の出版物が大半を占めた。

しかしその内容は、それまで寺子屋で使われていた往来物を排し、福沢諭吉や箕作麟祥など、文明開化に指導的な役割を果たした啓蒙家の著書・訳書を採択するなど、合理主義的な思想に基づき教育の刷新を計ろうとする意欲的なものであった。

1-4「絵入智慧の環」古川正雄(宮ヘ950-222)
下等第 8-7級綴字標準教科書。ひらかなの単語をいろは順に並べ、絵と漢字を添えて解説。初編上下明治3年刊。

1-5 「ちえのいとぐち」古川正雄(宮ヘ100-271)
下等第 8-7級綴字標準教科書。 1-4の簡略な姉妹編。短い例文を添える。明治4年刊。

1-6 「童蒙をしへ草」チャンブル著、福沢諭吉訳(宮ロ580-722)
下等第 8-7級修身口授標準教科書。原著はイギリス人チェンバース(Robert Chambers)のモラル・クラッス・ブック(The Moral Class-Book)。代表的翻訳道徳書。明治5年刊。

1-7 「世界商売往来」橋爪貫一(宮ル185-313)
下等第7級単語読方標準教科書。江戸時代の往来物の系譜をひく教科書。絵入りで単語を紹介し、上段に簡単な英訳を付す。明治4年刊。

1-8 「啓蒙智慧の環」瓜生寅訳(宮ヘ950-232)
下等第6級読方読本標準教科書。科学的な知識を中心とした翻訳の読本。明治5年刊。

1-9 「泰西勧善訓蒙」箕作麟祥訳(宮ロ580-719)
下等第6級修身口授標準教科書。フランス人ボンヌの著作に基づくとされるが原本は不詳。明治4年の前篇3冊が普及。

1-10「学問ノススメ」福沢諭吉(宮ロ580-739,740)
下等第6級読方読本標準教科書。平等の理念や自由独立の気風を説いた明治初年の代表的啓蒙思想書。明治5年から9年にかけて17冊が刊行され、13年に合本版が出た。原題は「学問のすゝめ」。偽版も含め各種の版本がある。

1-11「天変地異」小幡篤次郎(宮テ100-22)
下等第5級読方読本標準教科書。自然現象に関する迷信を排し、その原理を科学的に説明した啓蒙書。著者は福沢諭吉の高弟。明治元年刊。

1-12「世界国尽」福沢諭吉(宮ネ900-41)
下等第 4-2級地学読方標準教科書。江戸時代の数え歌や地名尽しの口調に倣い、七五調で世界地理を解説した入門書。5巻5冊に付録1冊を付し明治2年刊。

1-13「窮理図解」福沢諭吉(宮テ000-34)
下等第 3-1級理学輪講標準教科書。実利を目的とし、一般向けに物理学の原理を図解した入門書。初篇明治元年刊。

1-14「西洋新書」瓜生政和(宮ネ900-55)
下等第 2-1級読本輪講標準教科書。初篇明治4年刊。

1-15「西洋事情」福沢諭吉
上等読本輪講標準教科書。幕府遣外使節団に加わり欧米各国を歴訪した筆者による文明論の名著。初篇慶応2(1866)年刊。

1-16「五洲紀事」寺内章明訳(宮ヨ850-29)
上等史学輪講標準教科書。グートリッチの「万国史」を原典とする。初篇明治4年刊。

1-17「与地誌略」(宮ネ900-50)
上等地学輪講標準教科書。マッケー、ゴールドスミス等の原本の抄訳に基づく世界地誌。明治3年から7年にかけて刊行され広く普及した。

1-18「博物新編訳解」大森秀三訳(宮テ000-38)
上等理学輪講標準教科書。イギリス人合信(Benjamin Hobson)が中国人向けに漢文で著した「博物新編」を和訳したもの。内容は物理学、天文学、動物学等、多岐にわたる。巻1は慶応4年刊。

この中に福沢諭吉の著作が五冊入っている。この中で特に生徒たちが好んで暗唱したという『世界国尽』(せかいくにづくし)を調べてみました。

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続く

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正式名称は、『世界國盡』。
1869年(明治2年)の初冬に発行された。世界地理の入門書である。地理以外に、その国の歴史を説明している箇所もある。本書の特徴は、江戸時代の数え歌や地名尽くしにならい、本文が七五調で統一されているところにある。
『福澤全集』の緒言によると、日本国中の老若男女に世界地理を知らしめるため、江戸の地理案内書を購入して暗誦し、地理案内書にそっくりの七五調で書くことにしたとの事である。
世界国尽
「合衆国ニウヨルク州のワルプランク氏」の文章を飜訳して序文に代えている。冒頭で
「世界は広し万国は、おほしといへど大凡(おおおよそ)、五(いつつ)に分けし名目(みようもく)は、亜細亜(アジア)、阿弗利加(アフリカ)、欧羅巴(ヨーロツパ)、北と南の亜米利加(アメリカ)に、堺(さかい)かぎりて五大洲、太洋洲は別にまた、南の島の名称(となえ)なり」
と述べているように、一の巻はアジア、二の巻はアフリカ、三の巻はヨーロッパ、四の巻は北アメリカ、五の巻は南アメリカと太平洋諸島およびオーストラリア、そして六の巻は附録(地理学の総論)のように構成されている。
全巻にわたって、ほとんど全てのページに図が添えられていて、地理案内の図解のように構成されている。また、一の巻から五の巻までの最初と最後には、それぞれの「洲」の着色地図が添えられている。六の巻では地学を天文・自然・人間の3つのカテゴリーに分けて説明している。
そして、本文においては、例えば一の巻(アジアの巻)では、地理の説明以外に阿片戦争の歴史を説明している。

二の巻(アフリカの巻)では、アフリカ洲の一大国として「衛士府都」(エジプト)を取り上げて、特に「比羅三井天」(ピラミイデ)を説明している。

また、三の巻(ヨーロッパの巻)では、当時の5大国として、「魯西亜」(ロシア)、「普魯士」(プロシヤ)、「墺地利」(オウストリヤ)、「英吉利」(英国)、「仏蘭西」(フランス)をあげて、文明開化の中心地と説明している。そして、ヨーロッパの説明では
「土地の広袤(ひろさ)を較(くらぶ)れば、五大洲の末なれど、狭き国土に空地(あきち)なく、人民恆(つね)の産を得て、富国強兵天下一、文明開化の中心と、名のみにあらず其実(そのじつ)は、人の教の行届き、徳誼(とくぎ)を修め知を開き、文学技芸美を尽し、都鄙(みやこいなか)の差別(しやべつ)なく、諸方に建(たつ)る学問所、幾千万の数知らず。」
と述べて、その繁栄ぶりを強調している。
さらに、説明を続けて「彼(か)の産業(すぎわい)の安くして、彼(かの)商売の繁昌し、兵備整ひ武器足りて、世界に誇る泰平の、その源を尋(たずぬ)るに、本(もと)を務(つとむ)る学問の、枝に咲きたる花ならん。花みて花を羨(うらや)むな、本なき枝に花はなし。一身(ひとり)の学に急ぐこそ、進歩(あゆみ)はかどる紆路(まわりみち)、共に辿(たど)りて西洋の、道に栄(さかゆ)る花をみん」
と述べて、文明開化を進めるには学問が根本にあるとして「学問のすすめ」を説いている。

この福沢諭吉の『世界国尽くし』では、『世界は広し、万国は』のように、単なる読み物ではなく、これは暗記するための記憶術の要素もある。
一般に文字のない時代には、文章を読むのではなくて、当然記憶をたぐって歌うものでなかったか。
「尽くし」は、言葉=歌という聴覚だけでなく、それが産み出す情景という視覚も最初から同期していたのではないでしょうか。
歌というと他に「和歌」「数え歌」などいろいろあるが、それらは単なる読み物ではなく、それは耳で聞く記憶であり、それらが日本文化の伝統を形成するものとなっていったのではないか。
「和歌」「短歌」の七五調など記憶に残るという意味で気になることがあるので、もうちょっと調べてみようと思います。

投稿者 tennsi21 : 2008年04月15日 List   

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