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2012年01月14日
『安心基盤を作っていくには?』:「食」への期待7~安さを求めてきた消費者の意識こそが問題~
これまで『安心基盤をつくっていくには?』:『「食」への期待』シリーズということで、以下の記事をアップしてきました。
今回は、なぜこのような食の現状になってきたのか、ということについて消費者の意識という側面から考えてみたいと思います。
いつも応援ありがとうございます。
1.日本の「食」は安すぎる
まず、少し視点を変えて、現在、私たちの周りにある食品の価格について見てみます。
巷では、「100円バーガー」「298円弁当」「180円ラーメン」「全品290円均一の居酒屋」などなど、驚くほどの安さを売り物にした食品が増えてきています。そして、私たちもさほど疑問にも思わず、安いということの魅力にひかれてついつい買ってしまったり、食べていたりしています。
しかし、少し考えてみれば、国内や海外から原料を調達し、人の手で加工や運搬をし、
包装やラベル貼りもして、店頭で店員が接客して売っている食品がこれほど安いということは異常なことだと感じます。
以下、『日本の「食」は安すぎる』の著者、山本氏のインタビュー記事から引用してみます。
◆消費者よりも、生産者・メーカー・流通業者に目を向けるべき
・山本 そして、食品価格に対する感覚の狂いと、「消費者は社会の主役」という考え方が合体すると、「消費者のために、食品は安くあるべき」ということになる。最近は新聞やテレビでよく「食」の問題が取り上げられますが、その際、この「消費者のために、食品は安ければ安いほどよい」というメッセージが盛んに流されています。
・今の日本では、モノを買うときには小売店で買うことがほとんどで、それを作った生産者の顔を見ることがない。ですから、消費者は商品がこれまでより安く買われると困る人がいることを実感できなくて、安さばかりを求めてしまうのも当然かもしれません。しかし、だからこそ政府が率先して、適正な価格が守られなければ、結局よい食が失われ、消費者にツケが来るのだということをきちんとしたメッセージを送らなければならない。でも、それとは反対のことをやっているから、私は怒っているわけです。
(1)輸入原料の場合:
食料品価格=原材料の原産地価格+運賃(海上または航空)+保険料+輸入諸掛り+国内流通経費(運賃+倉庫保管料+諸経費+マージン)+加工費(加工賃(人件費)+燃料・光熱水料+包装資材費+保管料諸経費+マージン)+〔小売段階のコスト+マージン〕(2)国内原料の場合:
食料品価格=原材料の国内産地価格(生産・収穫に要する労働費+飼料費+肥料費+燃料・光熱水料等ほ場・牧場管理に係る諸経費+マージン)+国内流通 経費(運賃+倉庫保管料+諸経費+マージン)+加工費(加工賃(人件費)+燃料・光熱水料+包装資材費+保管料等諸経費+マージン)+〔小売段階のコスト+マージン〕日本と各国の家計消費支出比較より引用
◆安い食品の裏側
・『日本の「食」は安すぎる』という私の本にも書いたことですが、食品加工業界にいる友人は、コンビニやファストフードなどで食品を見るときには、必ず頭の中で原価計算をやるというのです。そして自分が基準値として持っている「ヤバイ線」を越えて安すぎるものは絶対に買わない。普通よりも安いということはどこかに皺寄せがいっているからで、それはだいたい人体に影響がある、と。
◆国産を「買い支える」消費者が出てこなければならない
・どういうわけかこの国の消費者は、節約というと真っ先に食費を削ろうとする。携帯電話には月一万円近く支払っているのに、日々口にする豆腐や納豆や調味料には十円の差を大きく感じる。本当に不思議な話です。人は食べなければ生きられないし、毎日食べているものは私たちの身体をダイレクトにつくっている。そんな大事なものに投資をせず、十円単位の差額をケチってレベルの劣る食品を選択し続ければ、十年後、二十年後に身体に何らかの影響が出てくることは十分予想できる話でしょう。
・例えば、皆さんがスーパーに行って、三個一パック九八円の納豆と、国産大豆を使用した一四八円の納豆とが売られていたら、一四八円の納豆を買ったとする。「五〇円も高いじゃないか!」と思うかもしれませんが、三人家族が平日の朝ごはんに毎日納豆を食べたとしても、五〇円×二十五日程度で差額は一二五〇円です。喫茶店で三〇〇円前後のコーヒーを四回節約すれば、国産大豆を使用した納豆を買えるし、それは日本の農業を元気づけることにもなる。価値としてどちらのほうが高いのか、ということです。
・いずれにしても、「新鮮で、安全で、おいしい食品を、安い価格で」などとムシのいい話は世の中にはない。安全でおいしい食品を食べたいなら、必要なコストはきちんと負担する。日本の消費者がそういう成熟した消費者にならない限り、食料自給率の向上も、農業再生も、そして食の状況がよくなることもあり得ないと思いますね。
『明日への選択』編集部・編より抜粋引用
流通においては、実際にスーパーの店頭に並ぶまでに、これだけのプロセスがあることに驚かされます。そして、そのプロセス毎に人の手が関わるため、それがコストや食品劣化(傷や腐敗)の原因となっていきます。それ以外に「中間マージン(利益)」も付加されてきます。
また、製造面でも納豆に限らず、醤油や味噌、塩などの日常的な調味料なども、昔からの製法で自然の摂理に則って製造すれば、スーパーなどで流通している価格の2~3倍にはなると言われています。結局、いい素材を使い、よけいな添加物を加えず、発酵なども自然に行えばそれだけの手間と時間がかかるのがまっとうなのだといえます。
しかし、現在。流通している食品は、大手メーカーが保存料や人口添加物などを使って大量生産している「醤油もどき」「味噌もどき」が大半になっています。
その必要以上に安すぎるしわ寄せは、結局は消費者自身の身体への影響(体調不良や病気の原因)となって出てきてしまっているのだといえます。
2.これまでの家計消費の実態は?
では、この半世紀で家計における食費の割合はどのように推移してきたのでしょうか?
<実支出(消費・非消費支出)の推移>
(二人以上の世帯のうち勤労者世帯、出所:総務省「家計調査」)
長期スパンでの大きな流れとして、食費や衣服費のウェートが大幅に減っている一方で、通信費や非消費支出(税金、社保)が上昇しています。食費は1963年には総実支出のうち33%を占めていましたが、2009年には約半分の17%まで減少しています。逆に、交通・通信費は3%から11.5%となり3倍超の増加、非消費支出は9.3%から22.1%となり2.4倍に増加しています。
※「その他の消費支出」が増加したのは、こづかい(いわゆる「こづかい」のうち,使途が不明のため消費支出の他の各項目に計上することができない部分。)が増えたほか、交際費および仕送り金が増加したため。
エンゲル係数が大きく下がっていることは知っていましたが、その分が通信費や税金・社保のコストに回されているとは意外です(特に、ここまで税金や社保が増えたのは官僚の無駄使いのせいでは?)。
次に、食費の内訳についても見てみましょう。
<1人当たり実質消費支出の推移(食費、1985年を100とする指数)>
社会実情データ図録
より引用
データで見ても、このエンゲル係数の下がり方を見れば、この半世紀で所得が増えたということよりも、それ以上に食品が安くなってきたことによる結果だといえそうです。
また、’85年以降で見れば、「中食(調理済みの加工食品の手軽に食べられるもの)」のウェイトが急速に高まっていることがわかります。
これは、女性の社会進出や家族がバラバラに食事をするライフスタイル(個食化)などが背景に有り、消費者自身が、より「早く」「簡単に」「おいしく」食べたいという欲求を最優先してきたことの証左だと思われます。
しかし、調理済みの食品となれば腐りやすくもなるし、均一においしく(感じるように)作るには化学調味料や保存料などの食品添加物が増えることになります。そして、安くするには食材原価や人件費を削る(なるべく手間を省く)など品質へのしわ寄せは不可欠となります。
このシリーズでは、これまで消費者目線から、食に関するリスクや、そこに利益優先の企業がどう関わっているか、ということについて見てきました。
しかし、結局、その企業も消費者のニーズにも敏感に反応しています。その消費者自身が、 「物価は安ければ安いほどいい」「カロリーが高い食事で栄養を摂ることが大事」「手軽に短時間でおいしく食べたい」などの価値観を根強く持っています(マスコミや学者を通じての洗脳によって)。
消費者が求めなければ、いくら企業が利益中心だといっても、身体に問題が出る危険のある食品も売りようがない。今の食に関する現状を招いている原因のひとつは「消費者の意識」だともいえます。
とすれば、まず、消費者自身が自らの食に対する意識や期待内容を変え、それを明確に発信していくことが求められるのではないでしょうか?
次回のシリーズまとめでは、今までの議論を踏まえ、消費者と生産者との新しいつながり方について追求しててみます。
読んでいただいてありがとうございました。
投稿者 staff : 2012年01月14日 TweetList
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