これからの充足のカタチ(9)~地域のことを考えていくことで新しい生産活動を生み出す「学生耕作隊」 |
メイン
2013年04月25日
これからの充足のカタチ(10)~地域の期待に応えることで社会を変える「旅館吉田屋」
前回は、農業支援から始まって、地域の活性化を担っているうちに、活動をどんどん広げている「学生耕作隊」を紹介しました。
今回は学生耕作隊とも協同している老舗旅館「旅館吉田屋」を紹介します。
旅館吉田屋は山陰の小さな温泉町、温泉津(ゆのつ)にある100年以上続く老舗旅館です。
旦那さんと女将さんの2人で経営しており、ご高齢で後継者もおらず廃業の淵を彷徨っていましたので、「やる気のある人がいるなら、経営ごと旅館をまかせたい」との意向を持っておられました。
その危機を救ったのは、全くの素人であるにもかかわらず24歳で経営を引き継いで、常識に囚われない発想で経営を見事に立て直した、山根多恵さんです。
大学時代の恩師から吉田屋を紹介され、最初はびっくりしたし迷ったそうですが、新しい経営モデルに挑戦したいとの思いから、その日の夜には「やります」と答えていたそうです(笑)。
山根さんは、常識に囚われない発想から旅館を週休4日制にしたり、規格外の野菜を買い取るシステムを作ったり、地域の問題を解決するために耕作放棄地や古い民家を管理したり・・・と、必要と思ったこと、まわりから期待されたことを、次々と担っています。
しかも、決して無理をしてやっているのではなく、どの活動も充分な利益を上げているというから驚きです。
それでは、山根さんへのインタビュー記事から、吉田屋に見られる「新しい充足のカタチ」を探ります。
続きの前に・・・いつもありがとうございます
戦経Interview「温泉旅館を“後継創業”した素人女将の華麗なる挑戦」を要約
■「常識」に囚われない発想で経営再建
普通、旅館業は世襲で代々続いていくものですよね。でも、5年間で5000軒の旅館が潰れる現状では、その常識はもはや通じません。とくに温泉津は小さな温泉街で、JRを使うと東京から日本一遠い街ともいわれているほど地の利も悪く、高齢化率も42%。典型的な過疎高齢化の進んだ街です。だからこそ、やる気のある若い人たちが温泉津のようなところに入ってきて、事業を受け継ぐことが地域を活性化させる条件となってくる。私は「吉田屋」で、そのモデルケースを創りたかったのです。
おかげさまで初期投資はすでに全額返済し、営業日はほぼ満室状態が続いています。いまでは、当初の予想以上の利益が上がり、もてあましているほどです。私たちの基本的な考え方は「いまある財を出来うる限り活用する」ことです。吉田屋は木造3階建て、8部屋の旅館ですが、とてもきれいに維持され、歴史と風格の漂う建物です。変更する必要はまったくないし、そんなところで働けることに誇りを持つこと、これが第一歩でした。
全くの素人で経営を引き継いだ山根さんもすごいですが、「やる気のある人がいるなら、経営ごと旅館をまかせたい」という元の経営者さんにも注目です。
100年以上代々続いてきた旅館という資産を、赤の他人に譲るといった決断はなかなかできないものです。でも、その決断の背後には「自分の資産を守る」よりも「価値のあるものだからみんなに有効に使ってもらった方がありがたい」という”これからの充足のカタチ”が見て取れます
この気持ちは、伝統がある吉田屋を改築せずに「いまある財を有効に活用」した山根さんも同じです。
吉田屋の3軒隣の旅館には新古今和歌集にもうたわれた名湯があり、「そちらに入っていただいた方が温泉好きの方には満足してもらえるだろう」と、吉田屋の泉源は閉めて3軒隣にある元湯の無料券を宿泊客に配っているそうです。温泉旅館が泉源を閉めて他所の温泉を勧めるなど、なかなかできないことですよね
「常識」に囚われない経営は、それだけではありません。
インタビューの続きです。
■「週休4日制」の導入で「社員の活力」と「質の上昇」を実現
また、金土日だけの営業にし、月から木までは、スタッフ全員が方々に散らばって地域貢献のための活動をやろうと…。こんなこと考えるのは日本中見回してもウチだけでしょうね(笑)。
2006年の1月に経営を引き継いで、7月に名義を含めた権利関係をすべてこちらが取得したのですが、その7ヵ月の間は、通常の営業日程を踏襲する形で運営していました。スタッフは朝6時から夜中の1時まで働きづめ。自分たちだけで掃除も食事の用意も洗濯もやり、それが毎日続くのですから疲れます。慣れない仕事で、本当に一生懸命でした。
で、ある時気づいたんですよ。これでは創造性が発揮できない。私たちから創造性がなくなったら終わりです。それにこのままでは、旅館業の基本である心のこもったおもてなしもできなくなる可能性がある。そこで思い切って、営業日を損益分岐点を上回っていた金土日の3日に限定し、週休4日体制にしたのです。結果的には、利益はもちろんトータルの売上も減るどころか増えました。仕入れやマンパワーも含めて、全体が非常に効率的になったためです。お客様が集中する週末に絞って営業するので、パワーが凝縮され、サービスのクオリティが目に見えて上がりました。
損益分岐点を上回る週末だけ営業するという「週休4日体制」は、まさにコロンブスの卵ですね
旅館業は毎年1000軒のオーダーで廃業になっており、常識=既存の枠組みでの発想では可能性はありません。
厳しい状況は他の業種も同様ですが、そんな中、吉田屋さんは、どんなに「常識外れ」であろうが、可能性を見つけたらまっしぐらに行動しているところがすごいです!
気になる「週休4日制」ですが、もちろん単に休んでいるだけでは可能性はありません。4日間で何をするかが注目点です
いったい、何をやっているのでしょうか?
■「地域維新グループ」の代表としても活動
3日を旅館業で目一杯稼ぎ、あとの4日を「地域の問題解決」のために費やす…この両輪を無理なく回すことが大事だと思っています。
地域維新グループは、4つのNPO、3つの中間法人、3つの株式会社からなるグループで、簡単にいえば「就職」よりも「起業」を選んだ若者たちのグループです。
旅館もそうですが、農業、林業、福祉などをテーマに、様々なプロジェクトを各地で展開しています。分かりやすくいうと、情報を集約させて「地域で面白いことを立ち上げ、騒ぎを起こす」わけです。それを続けていくうちに、地域の方々の「SOS」が山のように集まり始めました。
田舎には行政が引き取りを拒む利用価値の低い耕作放棄地や古い建物がたくさんあります。持ち主は処分したくてもできずに困っている。そんな人たちが私たちの活動を知り、なんとか管理してもらえないかと、相談にこられるのです。田んぼ、みかん園、古民家…ついこの間も25町歩ものお茶園を管理することになりました。等高線で囲めるような広大なお茶園ですよ。すごいでしょう(笑)。でも私たちは決して無理をしているわけではないんですよ。いまある「財」を有効利用して、無理なく地域の問題を解決していく。その方が環境にも人にも優しいでしょう。大企業のように設備投資をして大規模なビジネスを展開しようというつもりはまったくありません。というか、基本的に地域にはその必要性はないと思いますよ。
旅館を営業していない4日間は、地域貢献=人々の期待に応えるための活動をしているのですね。
”旅館業”という狭い枠で考えるのではなく、「人々の期待に応えることが仕事である」という働くことの原点に立脚しているところが、吉田屋さんたちの魅力であり強さだと思います。
人々の期待は無限であり、現在ほど「なんとかして欲しい」という期待が大きな時代はありません。
誰もが、そして各企業が、人々の期待に応えることを生業とすれば、失業を心配する必要はないし、「なんとかして欲しい」をみんなで解決していけば、どんなに住み安い世の中になることでしょう。
最後に、吉田屋さんが実戦している社会貢献活動とこれからの展望を紹介します。
■「農業」が最大のキーポイント
安全・安心の食を提供していきたい…というのが私たちの思いです。そのためには何をすれば良いのか。地域の顔の見える人たちから仕入れること。要するに地域の農家との連携です。ちなみに吉田屋では生産者の方のお写真や名前を添えて野菜をお出ししています。その流れのなかで、いま最も注目されている私たちの取り組みが「もったいない野菜」の有効活用です。
たとえば10センチ伸び過ぎたホウレンソウは、規格外となり捨てられてしまいます。品質は何ら変わらないのにです。よく規格外の野菜をトラクターで潰す場面をテレビでやってますよね。一方で、外国から危険な野菜がどんどん入ってくる。なぜ、こんな矛盾が野放しになっているかというと、規格外の野菜を買い取るシステムが日本にないからです。ならば、私たちがそのシステムを作ろうと…。
地域維新グループの1つに「食と農のインキュベーションのろNOLO」という団体があります。ここで、「もったいない野菜」を仕入れ、流通させる仕組み作りにも取り組んでいるのです。
彼らが何をやったかというと、まず、朝市などで野菜を並べているおばあちゃんのところに行って、買い取りの意思を示しました。すると、そのおばあちゃんはびっくりするわけですよ。規格外の野菜に価値があることをまず理解できない。それから、「どうぞ値段をつけてください」と投げかけると、また沈黙です。値段はJAがつけるもので、自分たちがつけるという概念がないわけですね。でも、規格外野菜が売れるとなると、今度はそのおばあちゃんが勉強し始めるわけです。新聞を読み、インターネットで調べる。生産意欲を生んで、その規格外の野菜の特徴をウリにして積極的に売り込むようになる。野菜を買い取ってもらえるというのは農家にとってすごい力なんです。吉田屋では、この「もったいない野菜」を食事に使うだけでなく、ロビーで販売もしています。
このような地域を支えていく取り組みを、地域維新グループが10余り直接手がけており、派生した活動を加えると、20ヵ所くらいにはなっていると思います。全体で70名くらいがスタッフとして働いており、トータルで約2億円の売上を上げています。
ここで大事なのは、どの活動も経済的に「儲かっている」ということです。利益が出ないと活動は継続できませんから。普通の人は、田舎の放棄地などを活用して利益が産み出せるなどとは思わないでしょう。でも、若者のアイデアと活力をそこに加味すれば、十分に儲かるんですよ。
「規格外の野菜も売れるんだ」という可能性を示されたら、農家のおばあちゃん達だってネットも駆使して勉強を始めるんです。
「人々の期待に応えたい」と動き出せば、たくさんのSOS=期待が集まってきます。
「景気が悪い」「仕事がない」とマスコミを中心に騒ぎ立てていますが、それは常識の枠の中でしか考えていないからなのだということに気付かされました。
人々の期待は何なのか、その期待に応えるためには何をすれば良いのか。
そのことを考え続けて、実戦していくことが社会貢献であると同時に、それこそが”仕事”なのですね。
常識に囚われずに、可能性に目を向ければ、”これからの充足のカタチ”はたくさん見つかりそうです。
次回の記事もお楽しみに☆
投稿者 watami : 2013年04月25日 TweetList
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://web.kansya.jp.net/blog/2013/04/1451.html/trackback
コメント
投稿者 春日順哉
コメントありがとうございます♪
週休4日にはびっくりしましたね。
でも確かに、既存の枠を取っ払ったら、可能性はいくらでも見つかる気がします^^
“相手を喜ばせるのが仕事”、傍(はた:そばにいる人)を楽(らく)にするのが“働く”ということ♪
この楽しさ、もっと伝えてゆきたいですねv
投稿者 副管理人
非常識を常識に変える発想は素晴らしいですね。
世の中を見渡せばどこにでも仕事をみつけられる。
若い人たちに気づいてほしいものです!!
会社勤めにはない生きがいが見つけられますからね。