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2010年05月16日
新たな時代の教育制度の提案に向けて~フランスの教育制度1(自由・平等・友愛と学歴社会)~
みなさん、こんにちは。
各国の教育制度を概観し、その上で今後の日本の教育制度のあり方を考える「新たな時代の教育制度の提案に向けて」シリーズの第5回をお届けします。
今日は、イギリス、ドイツに続いてフランスの教育制度を採り上げます。
※「新たな時代の教育制度の提案に向けて」シリーズのこれまでの記事
第1回「新たな時代の教育制度の提案に向けて~イギリスの教育制度(現在)~」
第2回「新たな時代の教育制度の提案に向けて~イギリスの教育制度(変遷と社会的意味)~」
第3回「新たな時代の教育制度の提案に向けて~ドイツの教育制度(現在)~」
第4回「新たな時代の教育制度の提案に向けて~ドイツの教育制度(変遷と社会的意味)~」
<エッフェル塔>写真はコチラより
ところで、フランスが「エリート王国」と呼ばれるのはご存知でしょうか?
フランスの教育制度は、現在の日本やアメリカと同様に単線型の教育制度です。フランスにおける公教育制度成立の始まりはフランス革命までさかのぼります。フランス革命は、旧制度を廃止し、人権宣言等の権利宣言を発表した一連の運動ですが、既に1791年に制定されたフランス憲法において、「全市民を対象とした共通の無償教育制度」を創ることが述べられています。全市民に教育を受ける権利があり、身分階級による格差をつけることなく、誰もが同じ教育を受ける権利をもつことが示されました。その「自由・平等・友愛」の理念下に作られたのが現在のフランスの教育制度です。
しかし、一方では、フランスにおける「エリート」と「それ以外」の区別は、日本以上に明確な線が存在します。政官財界や研究開発分野のトップを形成し、社会の牽引役を果たすエリートはきわめて少数で、彼らの権限や特権は極めて大きいものだといわれます。その「エリート」と「それ以外」を分けるのが「学歴」、フランスは日本以上に「学歴社会」なのです。
「自由・平等・友愛」を理念とする社会と「学歴社会」の異なる顔を持つフランス。そのフランス教育制度について、初等教育から順に見ていきましょう。
ポチッと応援よろしくお願いしします。
フランスには、日本の文部科学省に相当する機関として、国民教育省が設置されます。フランス全土は、その国民教育省を頂点に28の学区に分割されており、それぞれの学区には国民教育大臣が任命した学区長が配置され、同学区長が当該学区の小・中・高・大学を管轄しています。学校制度はエコール・プリメール(小学校)5年、コレージュ(中学校)4年、リセ(高校)3年の5・4・3制で、6~16歳までが義務教育期間です。
■義務教育
<フランスの小学生>写真はコチラから
小学校は5年制で、エコール・プリメールと呼ばれる。6歳のCP(準備科)に始まり、CE1(基礎1年)、CE2(基礎2年)、CM1(中級1年)、 CM2(中級2年)と進む。各自の進歩の度合いによって飛び級や落第もあり得る。1日の授業時間は6~7時間と長いが、日曜日以外に毎週水曜日と、隔週(もしくは月2回)の土曜日が休日になる。
小学校卒業後は、中等教育の前期課程コレージュ(中学校、4年制)に入る。コレージュでは最初の1年を第6学年と称し、進級するごとに数字が減って、第3学年で終了となる。内容は、前半2年間は共通課程であるが、後半2年間は選択課程となり、進学コースと職業教育準備コースに分かれる。義務教育段階の学費は無償。
■義務教育以降
学校段階・種類 前期中等教育を終了しコレージュを卒業した生徒は、希望によってリセと呼ばれる国立の学校(高校)で引き続き無償の教育を受けることができる(中等教育後期課程)。リセには進学を目的としたものと、職業的専門知識を習得することを目的としたものがあり、第2学年、第1学年、テルミナルという順で進級する。大学などの高等教育機関に進むには、バカロレアを受験し、合格することが条件となる。この国家統一試験に受かると、大学への入学資格を得る。フランスでは点数はすべて20点満点に換算されて、バカロレアの点数が15・16/20点ぐらいまでの人は、大学にそのまま入学する。基本的に大学はすべて公立で、自分の住んでいる地域のところに行くことになる。だいたいバカロレアの合格率は60%~80%。
■大学
バカロレアを取得すれば、ソルボンヌ大学でも、カーン大学でも、ボルドー大学でも、どこにでも入学できる。
<ソルボンヌ>写真はコチラから
フランスの大学生は生活面でも優遇され、一人暮らしをしていれば、月に150euros程度を国から援助され、年200eurosくらいで医療費はタダになり、電車は25~60%くらい割引され(これは大学生に限らず、12~25才の青年)、とても優遇された環境を手にすることができる。
ただし、バカロレアに合格すれば大学に入学できる代わり、進級認定はきわめて厳格になされる。このため大学入学時、教授に「恋愛か勉強か選びなさい」と言われるという逸話があるほど勉強しなければ進級できない。
えっ、このどこがエリート?思われかもしれませんが、フランスがエリート王国と呼ばれる所以は別にあります。それは、大学とは全く違った教育機関グランド・ゼコールです。マスコミでは、パリ大学やソルボンヌ大学は「名門」として紹介されることが普通ですが、しかし、実はそれらの大学は名門ではありません。多くの学生を教育する大学とは違い、少数精鋭のエリート教育を行う機関:グランド・ゼコールこそが本当の意味での名門のようです。歴代のフランス大統領の多くはこのグランゼコールの出身です。
■グランド・ゼコール
【国家エリートとしての特権】
グランド・ゼコールと現在名乗る学校はおよそ200程度あると言われる。しかし、正確にこの特権的教育システムの伝統を現在も継承する機関としては、およそ20程度とされる。とりわけ有名なのは大革命後に創立されたポリテクニックであり、200年以上もの間、理工学系の最高峰として君臨している。同時期に創立された高等師範学校は人文系の最高峰として現在でも難関のエコールである。
<ENA(フランス国立行政学院)>写真はコチラから
最近では、最も特権的なエリート養成校として知られているのがENA(行政学院)であり、ここは、政治家、高級官僚のほとんどを輩出して言っても過言でない。他にシアンス・ポ(Science Po:政治学院)やHEC(高等商科学院)などがある。高等教育の中でわずか4%に過ぎないこのグランド・ゼコールの学生たちのために国の高等教育予算のおよそ3分の1が使われるという。各学校により違いはあるが、基本的は公務員待遇となり給料をもらい、寮生活で未来のエリート人脈を作る。
【世襲されるエリート】
グランド・ゼコール入学までの厳しい選別と、保証されるバラ色の未来は「ロイヤル・ロード」と言われる。この道を歩むには親の文化的財産がかなり大きなファクターとなる。現在、親がグランド・ゼコール出身で社会的地位が高く都会で育っている場合、ほとんどの子弟も同じ道を歩みグランド・ゼコールへと進むという現象がみられる。生まれというよりも、家庭環境など後天的に獲得した知的財産が、その子の将来を決定づける。
近年、「Enarque(ENA出身者および学生)の子はEnarque」といわれるほど、グランド・ゼコールの入学は世襲制といってよい趣を呈している。家庭だけなく、育った地域の環境によっても進学率は飛躍的に異なる。そのために名門リセのルイ・ルグランに越境入学をしたりアパートを購入する親もいる。英語学習のために英国人ナニーをつけることも上流階級では珍しくない。そういった知的、経済的な資産:文化的資産の差異が階級を固定化する構造が生まれている。
以上、「フランスの高等教育の現在」より抜粋引用
フランスには、法制度としての貴族制度(身分制度)はありません。しかし、現実は「学歴」があらたな身分を形成し、「学歴」により選ばれた国家エリートだけが社会統合を担う社会だといえそうです。そのエリート製造装置こそがグランド・ゼコールなのです。
グランド・ゼコールに入学できるかどうかは、当然成績で決まる。優秀な成績であるには「親の文化的財産」で左右される。つまり、エリートに育てるという親の意思、それの基盤となる収入等の条件が整っていることが必要。だとすれば、初めから「エリート」と「それ以外」には、かなり明確な区分が存在している、とも言えるのではないでしょうか。
「自由・平等・友愛」という理念と、「学歴(身分)社会」という現実。そこには大きな矛盾があるように思います。
では、「自由・平等・友愛」という理念の下つくられた「公教育制度」とはいったい何なのでしょうか?本当に「自由・平等・友愛」を実現しているのでしょうか?
フランスの公教育制度は、どのような時代背景において、どのような目的で成立したのか?
次回、歴史を遡りその成立過程に迫ります。
投稿者 sachiare : 2010年05月16日 TweetList
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コメント
投稿者 履歴書の添え状
いつも楽しく観ております。
また遊びにきます。
ありがとうございます。