頭のいい子に育てたいなら、幼少期はとことん遊ばせて中学受験で後伸びする子は、幼少期に「熱中体験」をしている
わが子の人生が幸せであってほしい。だから、わが子には賢く健やかに育ってほしい。親なら誰でもそう望むことでしょう。少子化・晩婚化で、人生で一度や二度しか子育てができなくなっている今、わが子をきちんと育てたい・失敗をしたくないという思いから、早期教育に熱心な親御さんは少なくありません。
「けれども、お子さんを賢い子に育てたいなら、幼少期は、何はともあれ遊ばせることです」。そう話すのは、中学受験のプロとして、これまで5000件以上の家庭を個別指導してきた小川大介先生です。受験のプロであれば、“勉強第一”と言いそうですが、意外な言葉が出てきました。これはどういうことなのでしょうか? 今回は、『頭がよくなる子どもとの遊びかた』という著書も出版した小川先生に、2回にわたって「幼少期の子どもの遊び」について教えてもらいます。
中学受験の現場で感じた「伸びる子」「伸びない子」
中学受験のプロとして、数々の著書を出し、受験生の親を対象にした講演会やセミナーで活躍をされている小川大介先生。近ごろは未就学児・低学年のうちから中学受験に関心が高い親御さんが増え、講演会やセミナーの最後に行われる質問タイムでは、「この先、中学受験をするために、幼児期の今、やっておいたほうがよいことは何でしょうか?」という質問を多く受けるといいます。
「そういう質問をされるときは、恐らく『○○の勉強をしておくといいですよ』といった具体的な答えを求めていると思いますが、私は、中学受験のみならず、お子さんを頭のいい子に育てたいなら、『幼児期にたくさんの熱中体験をさせてあげてほしい』と伝えています」
学生時代から大手受験塾で看板講師として活躍し、その後、中学受験専門のプロ個別指導教室SS-1を設立し、数多くの子どもたちの指導と面談をしてきた小川先生ですが、たくさんの家庭を見てきた経験から、頭のいい子に必要な条件を発見したといいます。
それは「熱中力」です。
小川先生はこう話します。
「中学受験の相談で最も多いのが、高学年になってから成績が伸びなくなったという悩みです。一概には言えませんが、そういうお子さんの多くは、幼児期から早期教育を始め、小学校低学年から進学塾や習い事にたくさん通い、忙しく頑張ってきた子たちです。そういう子は、塾の授業で習ったことは理解できるのに、少し内容が違った問題が出ると、途端に思考能力がストップしてしまい、模試などで思うような結果が出せません」
「一方、低学年まで伸び伸びと過ごしてきた子は、新4年生で入塾したときは、授業に追いつくのもやっとでしたが、学年が上がっていくうちにじわりじわりと成績が伸びていくケースが多いのです」
「その違いは何だろう? と考えた結果、発見したキーワードが『熱中力』でした。小さいときに、どれだけ熱中体験をしてきたか。実はそれが頭のいい子を育てる最大の条件だったのです」
後伸びする子は、幼少時代にたくさんの「熱中体験」をしている
気づいたら時間を忘れるほど何かに熱中していたという経験は、誰にでもあると思います。子どもにとってそれは何かと言えば、「遊び」です。
では、そもそも遊びとは何でしょう?
小川先生はこう話します。
「遊びとは子どもがイキイキとしている状態を指します。楽しいから、ずっとやっていたい。もっと上手にやってみたいなど、子どもの心と身体が一緒に動き、夢中になっている状態こそが、『遊んでいる』なのです。熱中しているときに見たもの、聞いたもの、触れたものを子どもはよく覚えています」
「例えば公園で走り回って遊んでいたと思っていたら、家に帰るなり突然、図鑑を開いて『あ、分かったぞ! あのキレイな虫はタマムシっていうんだ!』などと言い出す。その子は、公園で目に留まった虫の形や色を覚えていたんですね。また、ある子は、積み木を何度も重ねていくうちに、下の部分を大きくしておくと、たくさん積み木を載せても崩れにくく、高くすることができることに気づく。それは、その前にたくさんの失敗を経験したからです」
「このように子どもは夢中で遊んでいると、色々なことを発見します。子どもが遊んでいるとき、つまり、楽しくてノリノリの状態になっているときは、子どもの心身は学ぶことに対して自然にウェルカム状態になっていて、学びのセンサーがオンになっているのです。そういうときは、特別に何かを与えなくても、子ども自身が学んだり、発見をしたりします。つまり、子どもは遊びながら賢くなっているのです」
「こうした『熱中体験』を幼少時代にたっぷり経験している子は、中学受験だけでなく、その先の受験、さらには人生で自分の能力や才能を発揮していきます」
では、幼少期から塾に通って勉強をしてきた子どもたちは、なぜ伸び悩んでしまうのでしょうか?
小川先生はこう意見を述べます。
「子どもは誰でも生まれながらにして好奇心を持っています。けれども、その好奇心の芽を大人たちが摘んでしまっているのです。少子化でわが子をきちんと育てたいと思う親は、早くから勉強をさせておいたほうがよいと考えます。一方、塾側も低学年のうちから子どもを確保したいと考えています。ですから低学年用のコースがどんどん拡張され、塾通いの低年齢化を促進しています」
「また、近年、2020年からの大学入試改革の影響から、中学入試の傾向も変わりつつありますね。従来の知識型の入試問題から思考型の入試問題に変わってきているわけですが、塾側も今この時代に思考力を伸ばすことが大事であることはもちろん分かっています。そのため、低学年のカリキュラムはそれを意識した内容になってきています。しかし、塾という場所は常に結果が求められます。塾に入れているのだから、子どもの学力が伸びないのはおかしいと親は思ってしまう。それゆえ、結局、成績重視の“与える学習”になってしまうのです」
「でも、与えるだけの勉強では、子どもは伸びていきません。自分で考える力を身に付けるには、遊びが欠かせないのです。子どもは、自由に遊ぶことで発想力を養います。また、友達など相手がいる遊びを通して、自分がやったことが相手にどんな反応を与えるのか? その反応によって、学んだり、反省をしたり、工夫をしたりするようになります。それを自分の体で体験するから感じやすいし、記憶にも残る。そして、そのときの体験が、後に習う知識へとつながっていくのです」
何でも成績に結びつけてしまうのは違うと思うのですが、熱中できること即ち好奇心いっぱいなんですね。どこでそれを無くすかというと、成績のための勉強なんですね。