偏差値68以上のいわゆる「難関大学」に合格するなどした経験がある人は、そうでない人に比べて、小学校に入学する前に思い切り遊んだり、好きなことに集中したりしていた割合が高いとする調査結果があります。これは、発達心理学が専門のお茶の水女子大学の内田伸子名誉教授らが20代の社会人の子どもを持つ保護者1000人あまりを対象に行なった調査で、2014年にNHKのニュース*1 で取り上げられました。いわゆる「難関大学」に合格した子どもの保護者に、「小学校入学前の子育てで意識していたこと」についてたずねたところ、35.8%が「思いっきり遊ばせること」と回答したのに対し、そうでない子どもの保護者では23.1%にとどまっていたのです。この結果について内田名誉教授は、「遊びのなかでさまざまな力を身につけることがその後の学習意欲をはぐくむ」と指摘しています。 自発的に遊ぶことで意欲を育てる
では、子どもを伸ばすにはどのような遊びが良いのでしょうか?
同じ調査では、難関大学合格者などの保護者の28.8%が「自発性を大切にした」と回答したのに対し、そうでない子どもの保護者は16%という結果が出ています。
この結果について内田名誉教授は、
「遊びをとおして、意欲とか探求する喜びを味わったことが、その後の学力の向上にもつながっていると思う」と言い、自発的によく遊ぶ子どもほど、その後の学力の伸びが大きくなると分析しています。
もちろん難関大学に入ることが子育てのゴールではありませんが、難関大学を目指そうという意欲を持ち、そのための努力をして、チャレンジをする気力や知力、そして体力があるということは、子どもが自分で自分の人生を切り開いていくために必要な力があるということにつながるのではないでしょうか。
遊びが、創造力を育てる
このような遊びの大切さは、他の分野の専門家の方々も指摘しています。たとえば、日本を代表する教育学者である東京大学の汐見稔幸名誉教授は、著書*2 のなかで
「遊びはたくらむ能力を訓練する」と言っています。
実際子どもは、なにもない広場でも自在に遊びを作りだしますよね。そんな経験が、これから特に必要とされている、なにかを創り出す力=たくらむ能力の基礎になるということです。反対に親の目が行き届きすぎて、与えられたもので遊んでばかりいると、なかなかそのような力は身につきません。
汐見名誉教授は、特に外遊びは自分で工夫しながら遊びを作りだす喜びを体験できると言います。
身体能力だけでなく、たくらむ力を育てるためにも、できるだけ、自然のなかで体を動かして遊ぶ機会をつくってあげたいものです。
なにかに熱中する体験が子どもを伸ばす原動力
さて、自分の持っている力を最大限に発揮するためには、自分からやろうという気持ちになることが大切です。それを内発的動機といいます。よく「子どもがやる気にならなくて困る」という保護者がいますが、時間を忘れて遊びに熱中しているようなときには、子どもは自分からやろうという気持ちになっているはずです。それをフローの状態と言います。
実は、徹底的に遊んでフローな状態を体験した子どものほうが、そうでない子どもより学習の効率もあがるし、思いも寄らないような力を発揮することがあると言われています。
そのようなフローな体験をさせるためには、子どもが集中して取り組んでいることをさまたげずに見守ることが必要です。
最初に紹介した調査で、「小学校入学前の子育てで意識していたこと」として、難関大学合格者などの保護者の24.1%が「好きなことに集中して取り組ませること」と回答したのに対し、そうでない子どもの保護者は12.7%となっていたという結果からも、そのことがわかるでしょう。
そもそも大人にとっても遊びは楽しいものです。「遊んでいないで、勉強しなさい」と言いたくなる気持ちはわかりますが、みなさんも、できるだけ子どもと遊ぶ時間をつくって、いっしょに楽しんで欲しいなと思います。
ここでも、「熱中」なんですね。