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2016年06月03日
子供たちの未来を一緒に考える~みんなの知恵が最良の「育児書」
前回は「育児書」の始まりから戦前までを見てきました。
おさらいをすると、
●育児書はもともと「家」を取り仕切る父親のための「家政書」だった。
●明治以降、育児は富国強兵の基盤として重視され「国政」として多くの育児書が編まれて来た。
●大正・昭和初期にかけて、都市部では生産と家庭が切り離され、父親は仕事、母親は家庭を守り主婦として育児期待がかけられるようになった。
という流れでした。
そして戦後は「家」でも「国」でもなく、母親が自分の子を育てるための「育児書」が急速に普及していきます。初期は欧米流の方法で、やがて日本の習俗や赤ちゃんの心に目を向けたものへと変化していきますが、あくまで母親個人への育児アドバイス、悩みや不安に答えるものが中心です。
では戦後の「育児書」の変転を見ていきましょう。
では戦後の「育児書」の変転を見ていきましょう。
以下(http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00039/200906_no39/pdf/259.pdf)より引用します。
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我が国では、戦後、特に高度成長期以後の時期に、サラリーマン化、都市化、大衆の受験熱、女性の社会進出などを背景に、育児書ブーム、育児雑誌の大衆化の時代が訪れ、商業ベースにのった育児雑誌が1966年の「赤ちゃんとママ」をはじめ創刊されてきたという経緯がある。
育児書以前の時代、育児のノウハウは口から口へ、人から人へと伝えられてきた。しかし戦後、特に高度経済成長以降は、核家族化の進行等、急速な社会環境の変化を背景に、口伝えはじめとする従来の情報源から絶たれ、実際的な子育ての経験にも欠け、急速に変化する子育て環境の中で子育ての責任を任された女性に向けて「専門家」が語りかける育児書が、子育ての重要な情報源の一つにのし上がってきたと言える。
これらの専門家は、子育ての経験や自らの道徳性の高さといった従来の子育て助言者の資格とは異なり、「科学」による裏付けや、マスメディアの発達、大衆の教育レベルの向上に支えられながらアドバイスを行うのが特徴となっている。
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戦後から現在に至るまで、育児書は母親に向けて専門家がアドバイスするという形が主流となってきました。同じころ、それまでの産婆による自宅出産から、院内出産へと切り替わり、出産・育児が医学的・科学的に論じられるようになったのです。その中で代表的なのが「スポック博士の育児書」。戦後の欧米式育児法の原点となった書です。
以下(http://spotlight-media.jp/article/191074799547605759)より引用します。
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スポック博士の育児書
『スポック博士の育児書』とは、アメリカの小児科医である『ベンジャミン・スポック』が1946年に出版した赤ちゃんから12歳になるまでの期間の育児書です。出版当時は『育児の聖書』と言われていました。日本では1966年に暮しの手帖社より出版されています。
単に読むための育児書にとどまらず、母子手帳にも取り入れられ、初版出版当時より子育ての代表的なバイブルとなっています。
明治以来育児の欧米化は徐々に進んでいましたが、敗戦と共に全面的に川の字育児は否定され、育児思想に劇的な変化が起こりました。赤ちゃんの生理や心理を棚上げし、“規則性”を育児のベースにおき、赤ちゃんの時から大人本位のルールを厳しく仕込もうと言う西洋式育児法が急激に普及しました。
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そんなスポック博士の育児法はというと
◇自立した人間を育てる。
◇抱き癖がつくので赤ん坊はあまり抱くな。
◇赤ん坊に個室を与えろ。
◇夜泣きしても放っておけ。
◇乳離れを早くしなさい。
といった具合。
戦後の民主化、個人主義の台頭を背景にいかにも時代の先端!という感じだったようです。当時のインテリ層では出産祝いにこの本を贈るのが流行していたとか。でもこれ、大人の事情を優先するのに都合の良い内容だったことも背景にあったのではないでしょうか。
しかしその後、日本の風習や習俗に根ざした育児書や、赤ちゃんとの心の関係に目を向けた育児書が登場し、徐々に軌道修正されることになります。有名な育児書をいくつかあげてみましょう。
以下(http://matome.naver.jp/odai/2135263544859520101)より引用します。
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●育児の百科 (著)松田道雄
1967年の刊行以降も、実際に乳幼児の保育にたずさわる保護者や保育士たちとの対話を重ね、日本の風習や民俗としての子育てをたずね、最新の学術的成果を求めて日々数十冊の国内外の小児科誌・医学誌に目を通すといった作業を積み重ね、1998年に著者が89歳で亡くなるまでやむことなく改訂を続けた本書。”まるで諭すような励ますような松田の文体を求めている親が、この世にはいる。”
●子育てハッピーアドバイス(著)明橋大二
「『赤ちゃんに抱きぐせをつけてはいけない』は、間違い」「10歳までは徹底的に甘えさせる」「叱っていい子と、いけない子がいる」など、これまで否定されがちだった、「抱きぐせ」や「甘え」の大切さが、オールカラーマンガでわかりやすく書かれています。”親なら必ず感じるであろう育児の「不安」や「困った」気持ちを、的確に捉えてあり、分かりやすく、納得しやすい言葉で書いてあるので、大変助かります。”
●子どもが育つ魔法の言葉(著)ドロシー・ロー・ノルト
世界37カ国で愛読され、日本でも150万部を超えるベストセラーとなった子育てバイブル。子育てでもっとも大切なことは何か、どんな親になればいいのかというヒントがこの本にあります。親は、子どもにとって、人生で最初に出会う、最も影響力のある「手本」なのです。子どもは、毎日の生活の中で、よいことも悪いことも、親から吸収していきます。
●子どもへのまなざし : 絵本とわたしとこどもたち(著)佐々木正美
児童精神科医の著者が、臨床経験をふまえて乳幼児期の育児の大切さを語る、育児に関わる人の必読書です。”育児に関する本はいろいろ読みましたが、これほど大切なことをわかりやすく教えてくれた本はありませんでした。”
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有名な育児書のほかに、「ひよこクラブ」のような雑誌や、育児をテーマにした漫画も数多くだされており、まさに現代は育児書のオンパレード。
ただ最近の育児書を見て思うのは、母親の悩みや不安を和らげること、母親自身の気持ちのあり方えを諭す内容が中心で、「育児書」というより「育自書」に近いものだということです。
そもそも「育児のノウハウは口から口へ、人から人へと伝えられてきた」ことからもわかるとおり、育児は一個人の力でできるものではなく、先人の知恵や、周りのみんなの力と合わせて取り組むものだったなず。今はそれが母親や夫婦という極めて個的な単位で行うものになってしまったところに根本的な問題がありそうです。
だとすれば、みんなで育てる“育児”を実現ことが大切であって、やがて現代のような個人的「育児書」は必要とされなくなるかもしれません。地域の人と一体になって運営する保育園、ママ友たちの共同保育など、当ブログでも紹介してきましたが、さまざまな人間関係に触れながら成長できる環境をつくっていくこと。そのために大人たちが一緒になって可能性に向かい、追求していくことがなにより大切なのだと思います。
こうした大人たちの繋がり、みんなのが知恵が最良の「育児書」になるような気がします。
投稿者 hoiku : 2016年06月03日 TweetList
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