| メイン |

2012年06月15日

『生きる力を育てる教育』~日本語の力(6)高度な思考を母国語で出来るのも日本語だからこそ

前回日本語の力(5)では、大和言葉を崩さずに漢字の便利さを取り込んだうえで、カタカナ、ひらがなを独自に発展させてきた日本語の成り立ちを紹介しました。
この、漢字かな混じり文という、表意文字と表音文字を使用する世にも珍しい言語システムのおかげで、日本は飛躍的に発展することができました。
 
今回は、そのすごさについて、お伝えします。
%E5%A4%96%E4%BA%BA.jpg
(外国の文化を日本に取り込んだ明治維新の志士たち)
 

 にほんブログ村 子育てブログへ

日本では、大学などの高等教育を、当たり前のように日本語(母国語)で行っていますが、実は、これは世界的にも珍しいことなのです。
 
例えば、お隣の韓国は高等教育を英語で行っています。特に理系教科が問題で、ハングルだけでは高度な数学や物理の概念を表せません。マレーシアであれナイジェリアであれネパールであれトルコであれアルメニアであれカザフスタンであれ、自国語で大学レベル以上の科学や技術や学問を行うことができず、英語やフランス語やドイツ語等の外国語に頼らざるえません。
 
四千年の歴史を誇る中国も、漢字で新しい概念を作り出すことが困難で、日本で作られた新概念を逆輸入しています。例えば、正式な国名である「中華人民共和国」でさえ、「中華」以外は日本語なのです。

中国の外来語辞典には、「日本語」とされているものが非常に多い。そのごく一部を分野別に拾ってみると、
  
思想哲学: 本質、表象、理論、理念、理想、理性、弁証法、倫理学
政治軍事: 国家、国民、覇権、表決、領土、編制、保障、白旗
科学技術: 比重、飽和、半径、標本、波長、力学、博士、流体、博物、
        列車、変圧器、冷蔵
医 学  : 流行病、流行性感冒、百日咳
経済経営: 不動産、労動(労働)、舶来品、理事、保険、標語、例会
   
「博士」などは、昔から中国にあった言葉だが、近代西洋の”doctor”の訳語として新しい意味が与えられ、それが中国に輸入されたのである。
柔軟に共存する日本人だからこそ生まれた日本語(1)

 
では、どうして日本語が、高度な思考をできる言語になったのか、その秘訣をみてみましょう。

外国語を自在に取り込んでしまう日本語の柔軟性
 
日本人が文明開化のかけ声と共に、数千数万の和製漢語を作りだして西洋文明の消化吸収に邁進したのは、そのたくましい知的活力の現れであるが、同様の現象が戦後にも起きている。
 
現在でもグローバル・スタンダード、ニュー・エコノミー、ボーダーレスなどのカタカナ新語、さらにはGNP、NGO、ISOなどの略語が次々とマスコミに登場している。
 
漢語を作るか、カタカナ表記にするか、さらにはアルファベット略語をそのまま使うか、手段は異なるが、その根底にあるのは、外国語を自由自在に取り込む日本語の柔軟さである。
 
漢字という表意文字と、ひらがな、カタカナという2種類の表音文字を持つ日本語の表記法は世界でも最も複雑なものだが、それらを駆使して外国語を自在に取り込んでしまう能力において、日本語は世界の言語の中でもユニークな存在であると言える。この日本語の特徴は、自然に生まれたものではない。我々の祖先が漢字との格闘を通じて生みだしたものである。
柔軟に共存する日本人だからこそ生まれた日本語(1)

 
一方、本家本元の中国語はというと、意外に新概念に対する適応力がないようです。

漢字の特徴の一つとして高い造語能力があげられる。ところが歴史を見てみると漢字の造語能力を存分に活用した事例は意外に少ない。伝統的中国語(漢文)においては漢字一文字で一つの概念や事柄を表すのが普通で、二文字以上の熟語は実はそれほど多くない。そのため中国では思想活動の活発だった春秋戦国時代(紀元前770-前221年)と仏教用語を翻訳するときに二文字以上の新語を多く造りだした程度である。漢字の高い造語能力は近代に至るまでかなり低レベルでしか活用されてこなかった。
「日本語の実力その2」日本語なしには成り立たない現代中国語

 
日本語がそのように高い造語能力を獲得しえたのは、前回紹介したように、日本語が表意文字(漢字)と表音文字(カタカナ、ひらがな)を巧みに使い分けているからです。

漢字との格闘の末に成立した日本語の表記法は、表音文字と表語文字を巧みに使い分ける、世界でももっとも複雑な、しかし効率的で、かつ外に開かれたシステムとして発展した。

それは第一に、「やま」とか、「はな」、「こころ」などの神話時代からの大和言葉をその音とともに脈々と伝えている。日本人の民族文化、精神の独自性はこの大和言葉によって護られる。
第二に「出家」などの仏教用語だろうが、「天命」というような漢語だろうが、さらには、「グローバリゼーション」や「NGO」のような西洋語も、自由自在に取り入れられる。多様な外国文化は「大和言葉」の独自性のもとに、どしどし導入され生かされる。

外国語は漢字やカタカナで表現されるので、ひらがなで表記された大和言葉から浮き出て見える。したがって、外国語をいくら導入しても、日本語そのものの独自性が失われる心配はない。その心配がなければこそ、積極果敢に多様な外国の優れた文明を吸収できる。これこそが古代では漢文明を積極的に導入し、明治以降は西洋文明にキャッチアップできた日本人の知的活力の源泉である。
柔軟に共存する日本人だからこそ生まれた日本語(1)

 
このように、意味を表す漢字と、音をあらわすカタカナを併用することで、日本語の造語能力は極めて高くなり、新しい概念が外国から入ってきても、日本語に取り込む柔軟性を獲得しました。
 
%E9%BB%92%E6%9D%BF%EF%BC%9A%E6%9F%94%E8%BB%9F%E3%81%AA%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E.JPG
  上記の画像は、電磁気学の板書です。
  「コイル」”coil”は、そのままカタカナで表記しています。
  それに対して「磁界」”magnetic field”は、翻訳されて漢字で表記しています。
  「磁界」という表意文字によって、図にあるような場がイメージされます。

 
新しい外来の概念は、まずカタカナで表記されます。カタカナは外国語をそのまま音で表記するだけなので、どんな難しい概念であってもカタカナにすることができます。なので、とりあえずカタカナで表記して、日本語の中に取り込みます。そして、カタカナのまま使っていく中で、次第に意味を理解していき、充分に意味を咀嚼した段階で、最も適した漢字を当てはめます。
 
それに対して、中国語は漢字だけしかないので、新しい外来の概念に遭遇した段階で、意味まで理解しないと漢字にできず、大量の新概念が流入した場合には対応しきれません。
  
  中国語では一般的に、ワープロは「文字処理器」、冷蔵庫は「氷箱」というように、
  その意味を漢字で書き表しますが、とりあえず漢字で表記しなければならない場合
  もあり、その場合は音を漢字で表しつつも、意味が一番近そうな漢字を選択しなけ
  ればなりません。
  例えば、ビタミンは「維他命」、コカコーラは「可口可楽」 (=口二ヨシ、楽シムベシ)
  となります。日本語で言ういわゆる当て字と同じで、どういう漢字を当てるかが難しく、
  国家要人を表記する場合などは、どの漢字を当てるかで国際問題化することさえ
  あります。オバマ大統領の中国語表記

   
中国語とは逆に、韓国のように音読みしかないハングル文字の場合には、外来語の読みがそのままハングル文字に置き換えられたものが氾濫するばかりで、カタカナやローマ字ばかりの論文を読むような状態になってしまいます。それなら英語などの言語を使った方が手っ取り早く、冒頭で紹介したように高等教育は英語で行われることになります。

日本語は、何であれカタカナで一旦取り込み、理解してから漢字に転換する、という二段階で吸収するところがミソで、カタカナが充分に新概念を理解しきるまでのバッファーの役割をしているのです。

当たり前のように使っているカタカナや漢字ですが、その歴史を紐解いてみると、先人達の智恵とあくなき追求力なしには存在しなかった、ありがたいものであることがわかります。

潜在思念が紡ぎだすやまと言葉をもとに、中国や西欧の新しい技術や智恵を吸収し尽くす「和魂洋才」は、日本語だからこそできることだったのですね

次回は、表意文字である漢字に着目して、漢字がいかに言葉の理解を助けているかについて、紹介します。おたのしみに
 

投稿者 watami : 2012年06月15日 List   

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://web.kansya.jp.net/blog/2012/06/1285.html/trackback

コメントしてください