- 感謝の心を育むには - http://web.kansya.jp.net/blog -

『安心基盤を作っていくには?』医療制度はどうなる!?―6~アメリカ医療事情・中編(医療費)

%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%81%A7%E8%B5%B7%E3%81%8D%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%82%B7%E3%83%93%E3%82%A2%E3%81%AA%E7%8F%BE%E5%AE%9F-2.gif [1]

前回の記事 [2]では、アメリカの医療保険制度の実情を扱いました。

画像はこちら [3]からお借りしました

今回は、自己破産する人もいるほど高いアメリカの医療費の実態と、なぜ医療費がここまで高騰してきたのかを扱います。

■世界一高いアメリカの医療費

アメリカの医療費は、世界一高いと言われています。都市によって違いがありますが、一例を挙げると‥

一般外来の初診料150ドル(約1万2千円)から300ドル(約2万4千円)
専門医を受診200ドル(約1万6千円)から500ドル(約4万円)
子宮筋腫の治療費 日帰り外来手術100万円以上
虫歯の治療2本で1,200ドル(約9万6千円)
出産費用14,000ドル(約112万円)
嘔吐と下痢 ウイルス感染で子供2人が5日間入院約140万円
虫垂炎(盲腸)手術で1日入院 ニューヨーク:約240万円 ロサンゼルス:約190万円

[4]

左の表は、世界の主要都市における虫垂炎(盲腸)の手術入院にかかる費用を比較したものですが、

アメリカの主要都市が際立って高いことが分かります。

外務省のホームページでも、

米国の医療費は非常に高額です。(中略)病気や怪我など1回の入院で数百万円から1千万円になることを覚悟してください

外務省HP [5]より抜粋

と旅行者に注意を喚起しています。

では、なぜこんなにもアメリカの医療費は高いのでしょうか?

■異常に多い医師や病院職員の数

一つ目の原因は、医師に支払われる「ドクターフィー」、入院時の部屋代・看護代などの「ホスピタルフィー」が非常に高くなるからです。

その理由は、日本では「ベッド100床に対して医師数は13人、看護師は44人以上」が一般病院の施設基準ですが、アメリカでは「ベッド100床に対して医師は72人、看護師は221人」にもなり、アメリカでは日本の5.5倍の医師と、5倍の看護師がいます。(1998年 OECD統計)

また、同規模の病院の職員数を比較した資料によると、ボストンのSE病院では「ベッド数350床に職員2011人」、日本の国立病院では「病床数310床に総職員数200人」で、アメリカの方が約10倍にもなります。

このように異常に多い職員数を抱えていれば、人件費や経費がかさんでアメリカの医療費が高くなるのは当然です。

ここまでアメリカの病院の職員数が膨れ上がる理由は、医師・看護師の数が多いからだけではありません。

アメリカでは、数百社ある民間保険会社のそれぞれに何種類もの保険があるので、患者が加入している保険によっては、同じ診療内容でも請求金額がまるで変わってしまうので、治療費の計算・請求作業が非常に複雑になります。

それに対応する必要から多数の事務員を雇わなければならず、病院の職員数が多くなるのです。

■訴訟社会が生み出す無駄な医療

訴訟の国アメリカでは、1970年代の初め、医療訴訟の急増と賠償金額の高騰により、保険会社は医療損害保険から撤退したり、大幅な掛金の増額を行いました。そのため、医師の収入の約3割が医療損害保険料に当てられるようになりました。

過誤保険の保険料の高騰は、特に産科・救急外科など、過誤訴訟のリスクが高い科の診療にたずさわる医師を直撃し、それまで年間約4万ドルだった保険料が、年間約20万ドルを超すことになった例も稀ではなく、「医療過誤保険の保険料を払うためだけに診療をする」ような状態になってしまいました。

「医療過誤危機(Malpractice Crisis)」とは、「医師や病院が,保険会社の撤退のせいで医療過誤保険にアクセスできなくなったり,保険料の高騰で過誤保険が購入できなくなったりすること」を言います。

しかし、それだけでなく、医療過誤でいつ訴えられるかわからないという恐怖心が、医師たちを「防衛医療・保身医療(Defensive Medicine)」へと駆り立てています

例えば頭痛の患者を診察する際、通常は頭痛の部位や起こり方、経過などから診断を進め、鎮痛剤の処方や「様子を見ましょう」だけの場合が多いものです。

しかし、稀には脳腫瘍や脳内出血などが潜む場合もあります。過度な訴訟社会ともなれば、医師は保身のために全ての頭痛の患者に頭部のCT・MRI検査を指示するようになります。

こういう医療が「防衛医療・保身医療(Defensive Medicine)」であり、「訴訟社会が生んだ無駄な医療費」だとも言えます。

■利潤追求で暴走する株式会社の病院

[6]

アメリカの病院には、教会や慈善団体などによって設立された非営利で経営(株式会社のような利益配当が禁止の代わりに税金が免除)されている民間病院が70%と最も多く、公立病院(各州などが経営)が約18%、営利病院(株式会社が経営)は12%となっています。
岡部陽二のホームページ
[7]

アメリカでも株式会社が経営している病院は全体の10%そこそこにすぎない。

しかし、地域に「サービスの質を落としてでも価格をさげて利潤を追求する」医療企業が参入すると、「サービスの質を追求する」病院もその企業の経営手法をまねないと競争に負けて潰されてしまう。この現象は、吸血鬼にかまれたものが吸血鬼になるということで、「バンパイア(吸血鬼)効果」とよばれている。

まず、競合相手の病院を買収して閉鎖すると言うことまでして強引な寡占化をする。競争相手がなくなると、非営利病院の何倍近い定価で医療を行っても他に病院がないので患者が来る

次に、看護師を辞めさせ看護助手という無資格者を雇う不採算部門の科を閉鎖する。

ついには、病院ぐるみによる不正請求も行う。テネット社も不正請求が発覚し株価が暴落したが、その後さらに、チェーン病院の一つで何の病気もない何百人もの人に冠動脈のバイパス手術をしていたことが発覚してFBIの強制捜査を受けた。

このテネット社を作ったCEO、ジェフリー・バーバコウがストックオプションで得た株を1億2,000万ドルで売却し巨大な利益を得た。当然株主は怒ってぼろ儲けした金を返せと株主訴訟を起こしたが、返さないと拒否した。こういう人がアメリカの株式会社病院を経営している。

75.医療制度の国際比較(3) アメリカの医療制度(2) [8]

非営利の病院が少し高い治療費で、良い治療をしていても、近所に治療制限があるが治療費の安い病院が出来ると、患者さんはみんなそっちへ行ってしまうので、対抗して診療を変えていかなければいけなくなってしまうということです。

■資本が支配するアメリカの医療

前回の記事で見たように、アメリカの医療で患者・医師・病院をコントロールしているのは保険会社です。そして、今回の記事でここまで見てきたとおり、アメリカの医療は、医師が訴訟によるリスク回避に、病院が利益追求に追われる挙句、医療行為そのもの以外にかかるコストが膨らんでいます

また、1990年と2000年とで、医療コストの内訳を医療サービス別に比較すると、薬代だけが5.8%から9.4%(約1.6倍)へと大幅に上昇しています。薬代が高くなっている背景には、「一錠10年」と言われるほど、新薬の開発に膨大な費用をかけていることが大きく影響しています。

[9]

製薬会社は、こうして高い費用をかけて開発した薬を使ってもらうために医師を接待したり、業界に有利な政策をとるよう政界に働きかけたりしています。

こうした開発費、接待費、政治工作費を回収するために、薬代は必然的に高くなってしまうのです。

[10]このように、アメリカでは医療費が高騰を続けています。
その影響を受けて、アメリカの医療保険料は、2000年以降、毎年10%以上の急激な上昇をしています。

ここまで見てきたように、アメリカの医療は、保険会社や製薬会社を主とする資本が支配していると言えます。

次回は、このような資本が支配するアメリカの医療制度が、どのようにして形作られてきたのかを扱います。

[11] [12] [13]