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子どもの能力形成と脳の発達はどのようにつながっているのか

世間にあふれる「習い事」。
いずれも我が子の成長を願う親たちの期待の表れなのだろうと思いますが、他方で元気がない・コミュニケーションが苦手・引きこもりがちになる子どもたちが増えているなどの事例を見聞きする度に、はたして子供たちの能力形成に本来求められるものってなに?という疑問が湧いてきます。

今回は、子供の成長と脳の発達、そのつながりに着目しながら、本来子どもたちに求められる成長環境とはどのようなものかを考えていきたいと思います。

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■子どもの脳は三段階で発達する
まず、主に0~5歳時に発達するのは後頭葉にある感覚野(視覚、聴覚、触覚などの五感)と言われています。
私たちは、目や耳、肌感覚などを通じて得たさまざまな環境情報を記憶などと照らし合わせ、それが何を意味するのかを理解し、それに対する反応を言語化したり、意思決定して行動に移したりすることによって、複雑に変化する社会の中で生きていくことができるようになります。感覚野の発達は、その土台となる「心と身体の平衡感覚」を身につけていく時期といえます。

次に、特に7~8歳にかけて急速に発達しはじめるのが前頭前野。ここは想像力をつかさどる領域と言われています。目の前にはないものに対してイメージしたり、推論したり未来について考えたりという、ヒトに特有の高度な認知機能を担う脳の中枢です。「相手の立場に立って物事を考える」思考も、この時期に形成され始めます。
異なる相手の心を状況に応じて想像し理解しようとする機会を豊かに得ていくほど、前頭前野の発達はさらに進んでいきます。

そして、前頭前野の発達には第二段階があります。それが思春期。前段の発達で獲得し始めた未来予測・相手視点の思考・いわゆる理性で感情をコントロールしようとする意識そのものを敢えて突き抜け感情を爆発させる時期。この過程が、結果的に前頭前野の更なる発達を促します。(この仕組みがそもそもヒトにセットされているという驚き)
未来に起こり得るリスクや不安に縛られることなく、自分の好奇心、冒険心のままに様々な未知領域に挑戦する過程で得た成功や失敗、喜びや悲しみ。これら全てが経験値として脳回路に蓄積され、社会で生き抜く力の基盤をさらに豊かなものにしていきます。

まとめると、
1.0~5歳:感覚野の発達により「心と体の平衡感覚を身につける」
2.7~8歳:前頭前野の発達第一段階で「相手の立場に立って物事を考える」
3.13~15歳:前頭前野の発達第二段階で「リスクや不安を恐れぬ挑戦をもって未知対応力を身につける」

以上、子どもの脳回路発達は大きく三段階に分けられるのではないかと思います。

 

■アタッチメント(愛着)が果たす役割
ただし、それぞれ次の段階に進むとき、子どもにとって次の地平はもちろん未知であり、怖れや不安といった感情が壁として立ちはだかります。
その壁を乗り越えるために重要な役割を果たすのが「アタッチメント(愛着)」の形成
(参考:アタッチメントが生涯を支える [2]

子どもが未知の危機的状況に陥ると、怖れ・不安などの情動の変化や、鼓動が高まる、瞳孔が開くといった身体変化が急激に起こると言われています。未成熟な子どもは、その変化を自らの力で制御することができません。代わりに、養育個体の身体にくっつくことで、それを安定化させようとします。こうした経験を「特定の誰か」との間で蓄積していくことで、子どもは精神の安定・安心を得ていきます。
主に乳幼児期に形成される「アタッチメント」は、さまざま怖れや不安が伴った時でも「いざとなったらあの人(アタッチメント対象)にいつでもくっつける」という幼少期の体験(愛着対象の広がり)こそが、それを精神的に支える土台となっていくのです。

 

以上をみていくと、少なくとも特定の知識や技術を詰め込むだけの「習い事」では、本来望まれる能力形成には至らない。特に能力形成の土台をつくる幼少期の過度な「習い事」は、むしろ成長の阻害要因になりうる危険性をはらんでいるのではないか。
これからの時代に求められる「学びの機会」とはどのようなものか、引き続き考えていきたいと思います。

参考図書:マスク社会が危ない(宝島社新書)

 

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