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「教科書が読めない人」は実はこんなにいる

「読解力」といえばあらゆる勉強の基礎。文章が読めなければ問題の意図もつかめず、あらゆる教科が理解不能になってしまいます。そのまま大人になれば、メール文さえ意味不明、マニュアル人間どころかマニュアルすら読めない・・そんな悲惨な状況になってしまいます。

ところがこの「教科書が読めない人」は意外な多く存在するようなのです。

今回はその実態を紹介します。

以下(https://toyokeizai.net/articles/-/300847)より引用します。
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〇理不尽かつ不可解な非難の裏側にあるもの

前著『AIvs.教科書が読めない子どもたち』を出版してから1年半。多くの方から「腑に落ちた」という感想をいただきました。

まずは、文筆業をされている方たち。「物を書いて世に問うのだから批判されるのは覚悟している。けれども、近年あまりに理不尽かつ不可解な非難が多くて議論にならない。よほど悪意があるのかと思っていたが、この本を読んで、『もしかするとそういう人たちは文章を読めていないのかもしれない』と思い始めた」と言うのです。

次は学校の先生たちです。小学校では、「算数の文章題を解けない生徒の多くが、『(問題で)何を聞かれているかわかる?』と聞いても答えられない。図にすれば解けるのだろうけど、図にすることができない。だからドリルは満点でも、文章題の答案は真っ白のままという生徒は少なくない。それを読解力と結び付けて考えたことがなかったが、この本を読んで『確かに読解力が足りないんだろう』と思った」と言います。

私たちが考案した基礎的・汎用的読解力を測るリーディングスキルテスト(RST)には、「同義文判定」という問題群があります。200字に満たない2つの文の意味が同じか、異なるか、二択で選択します。この能力は記述式問題の答え合わせをするうえで欠かせない能力です。例えば、こんな問題です。

・幕府は、1639年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた。
・1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた。

以上の2文は同じ意味でしょうか。
もちろん、答えは「異なる」です。けれども、中学生の正答率は57%にとどまりました。この話を、とある自治体の教育委員会でお話ししたとき、多くの委員が「信じられない」という顔をしました。何かの間違いではないか、成績に関係ないテストだからやる気が出なかったのではないか、コンピュータで受検するという形式に慣れていなかっただけではないか、との質問が出ました。

ところが、私のすぐ後に登壇した現役の高校の国語の先生がこう言ったのです。新井さんの言うことは真実です。実際に定期試験で、先程の例題の2つ目のような解答を持ってきて、「先生、どうしてこれは×なのですか?」と聞きにくる生徒が少なからずいます、と。「意味が違うでしょう」と言うと、「でも、(キーワードとなる語は)全部合ってます。部分点は出ないんですか?」と食い下がるそうです。

〇解答にさんざん時間をかけても間違える生徒たち

RSTで提示するのは、長文ではなくツイッター程度の短文です。主たる出典は教科書や新聞です。それで「同じ」「異なる」の二択の同義文判定の問題の正答率が3分の2(66%)に届かないような中高校生がかなりの割合でいたのです。

私はうたぐり深い性格です。数千程度のデータで「短文すら読めない中高校生がいる」などとは思いません。やる気がないから適当に答えた生徒が相当数いたのだろう、と当然疑いました。

RSTは他のテストとは異なり、パソコンやタブレットを使って解きます。問題は離れたところにあるサーバーからインターネットを経由して出題されます。ですから、受検者の解答パターンや解答するまでにかかった時間などをモニターすることができるのです。

確かに「数秒以内に解答し、しかも全部①番の選択肢を選び、正答率はランダム並み」という生徒もいました。ですが、その割合は予想をはるかに下回りました。さんざん考えた末に間違えるという生徒のほうが圧倒的多数だったのです。しかも、地域が誇る伝統校――かつては旧帝大に卒業生を送り、その地域の名士や国会議員を輩出したような高校──でも、予想外に成績が悪い。

「意味を理解して読むことができない」という現象が想定外に広がっているのではないか、という疑念が確信に変わったのは、バイトに来ている東大生に頼んで、正答率が低かったRSTの問題を、東大のゼミ仲間に解いてもらった結果を聞いたときです。前著『AI vs.教科書が読めない子どもたち』に出てくる、悪名高き「アミラーゼ問題」に日本人大学院生は全員不正解。唯一正解したのが中国からの留学生だったというのです。

「アミラーゼ問題」とは以下のような問題です。
次の文を読みなさい。

『アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。』
この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。
セルロースは(?????)と形が違う。
(1)デンプン?(2)アミラーゼ?(3)グルコース?(4)酵素
(答えは最終ページ参照)

ところが、日本にも世界にもこのような現象を認識し、分析している研究が存在しない。教科書をどう教えるかについては微に入り細をうがって研究している教育系の学会でも、「教科書を生徒は読めるのか」という問題意識を持っていなかったことには驚かされました。「真剣に読もうと思えば、読めるはず」「
読めなかったのはうっかりしただけ」と思い込んで、見過ごしてきたのでしょう。

〇企業現場での読解力不足はトラブルのもと

加えて企業の中間管理職の方たちからも感想をいただきました。「上からは生産性を上げろと言われるが、現場はメールや仕様書の誤読による予期しないトラブル続きで働き方改革どころじゃない。すると能力の高い人材から転職してしまう。一度そのサイクルに陥ると、なかなか立ち直れない」と言います。

こうした危機感が共有されたのでしょう。前著からわずか1年間で小学6年生から一流企業のホワイトカラーまで14万人がRSTを受検しました。それまでの3年間と合わせると、受検者数はのべ18万人を突破しました。

ただ、RSTは(問題の流出や替え玉受験を防ぐために)基本的には実施機関がパソコン教室などの施設を準備し、機関ごとに受検する方式をとっています。例題を数問公開していますが、全体像がなかなかわからない、というご意見が少なからずありました。

そこで、新著『AIに負けない子どもを育てる』では、RSTの最新の研究成果をお伝えするとともに、RSTを体験していただくコーナーも設けました。ぜひ、挑戦してみてください。「事実について淡々と書かれた短文」を正確に読むことは、実はそう簡単なことではなく、それが読めるかどうかで人生が大きく左右されることを実感することでしょう。

基礎的・汎用的読解力を身に付けて中学校、そして高校を卒業させることこそが、21世紀の公教育が果たすべき役割の「一丁目一番地」だと共感してくださる方が1人でも増えることを切に願っています。
(※アミラーゼ問題の答えは、(1)デンプン)
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『「でも、(キーワードとなる語は)全部合ってます。部分点は出ないんですか?」と食い下がるそうです。』

いかにも試験で点を取るための勉強しかしていない「試験脳」的発想ですね。

でも読解力というのは、学校の勉強や試験で身につくものではないように思います。知りたい、理解したい、伝えたい、という根源的な欠乏なくして読解力は向上しないのではないでしょうか。やはりここでも、強制的な勉強の習慣が、追求に向かう情動に蓋をしてしまっているのではないでしょうか。

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