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「抱っこ」と「おんぶ」の人類学

赤ちゃんと一緒に行動するときは「抱っこ」がいいか「おんぶ」がいいか?永遠の命題みたいに「抱っこ」派、「おんぶ」派の意見が交わされていますね。

抱っこは目線があって安心感がある、常に表情や様子が見てとれる。けど手仕事には不便。
おんぶは、手仕事に便利で密着した安心感がある、視野が開け親と同じ視線でいろいろなものを見ることができる。けど足の血行が悪くなる、野暮ったい・・・

今は欧米流の抱っこが主流で、昔ながらのおんぶの良さも見直されつつある、という感じでしょうか。

で調べてみると、お猿さんも抱っこやおんぶをしていて、人類以前からの歴史を持つものであるらしい。しかも世界を見ると、おんぶでも抱っこでもない独特の方法もあるようです。

今回は、「抱っこ」と「おんぶ」の歴史をたどってみましょう。

 

以下は、(http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00039/200906_no39/pdf/259.pdf)からの転載です。

抱っこと負んぶという運搬・保育技術は、熊や鹿は機能的に不可能であるものの、猿には可能であり、動物園の猿山では抱っこや負んぶをしばしば目にする。つまり、抱っこと負んぶは人類以前からの歴史を持つものと言える。

昭和前期の保育学者西村真琴の「世界の子供の背負ひ方抱き方」(育児報告展集抄,1939年,全日本保育連名)で、世界諸地域・諸民族の抱っこと負んぶの分類を試みている。西村は、「子を荷ひ運ぶ習慣」の種々相には「人類の我が子愛育の諸相」があらわれていると言い、抱っこと負んぶの方法とかたちを表1の6つに分類している。

表1 抱っこと負んぶの方法とかたち 文献4)より
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(1)首かせ式 :いわゆる日本の「肩車」で、子供は大人の額に両手
をかける。
(2)カンガルー式:首・頭にひもをかけてつった袋に子供を入れて
胸に抱える。
(3)コアラ式:子供が背に負われているものすべて。
(ア)子供の手が母の肩や首に取りすがる位置にあるもの
(イ)子供の手が母の両脇から出でて胸に取りすがるもの
(ウ)布または紐でくくり、子供の位置は(ア)にあたるもの
(4)横たすきがけ式:肩から脇腹への幅広のたすきがけの中に子供
を腰かけさせ、背のあたりに手を添えて安全性を保つ。
(5)装置使用式(オポッサム式:オポッサムは数匹の子をしっぽに
捕まらせて背中に乗せる):子供をハク部為にいろいろな危惧を
使う方法を総称。
(6)その他:例えば、
(ア)頭の上に載せて子供を運び歩く。
(イ)乳を欲しがるときだけ抱き上げるが、飲み終わるとむしろの
上に寝かせておく。
(ウ)決して抱いたり背負ったりして歩かない奇習。
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我が国でこうした抱っこや負んぶがいつ頃からあったのかというと、例えば縄文中期の石川県河北郡上山田貝塚から出土した一種象徴的な土偶には、その背中に手足を大の字に広げた幼子が張り付いている。この縄文中期より三千年後の西暦四、五世紀にあたる古墳時代には、 栃木県鶏塚古墳出土の埴輪に、幼児を背に負って子守歌でも歌っているとおぼしき女性像も見られる。
また、平安時代末期の鳥獣戯画などの風俗画には、階層を超えて抱っこと負んぶの習俗が垣間見られるようになり、江戸時代に至ると負ぶい帯びやねんねこ半纏(ばんてん)と言った「負んぶ用具」まで発明されて、「日本式負んぶの技術」が完成されることとなった。

幕末から明治初期にかけて日本に来た欧米人の旅行記には、申し合わせたように、日本の親たちは負んぶという方法で子供を手厚く保育しており、日本は子供にとって天国であると記している。やむを得ないときしか乳幼児を抱き上げない「抱っこ社会」に育った欧米人には、すぐ子供を背負ってしまう「負んぶ社会」の日本が印象的であったのである。

この日本民族の抱っこと負んぶ習俗は、現在では大幅に状況が変わってしまっている。敗戦直後期までは、都会にも農村漁村にもどこにでも見られた母親の抱っこと負んぶ姿がほとんど目に触れなくなってしまったのである。とは言え、欧米風の生活をモデルとしてきたここ数十年の感覚からすると、負んぶは日本的・土俗的で野暮ったいものに感じられるが、抱っこは欧米でも盛んに行われており、センスある乳幼児の運搬・保育方法だという印象で受け取られている。
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興味深いのはサルの時代から「抱っこ」や「おんぶ」があったということ。集団で暮らし、共認社会を営むサルたちにとって、母子のふれあいはコミュ二ケーション能力を育む原点になっていたのではないでしょうか。単なる移動手段ではなく、ふれあい、感じあうことで共感充足も育っていったのだと思います。

人類もまたそれを受け継ぎ、日本においては農作業や家事などの仕事をしながらの育児が多かったことから「おんぶ」が主流になったのだと思います。一方欧米では、赤ちゃんの頃から躾ける習慣がベースになり、必要なときに抱っこするというスタイルになったのではないでしょうか。

抱っこもおんぶも、その生産スタイルや子育て観によって変わるもの。一概にどちらが良いとか決め付けられるものではありませんが、その中心にあるのは母子のスキンシップと共感充足。ここが最も大事なところなのだと思います。

私にとっては、母の背中の温もりと、歩いているときのリズム感、背中にしがみついている時の安心感がとても懐かしく思い出されます。古いといわれるかも知れませんが、これってやはり縄文人の血なのかもしれません。

 

 

 

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