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新たな保育の可能性9~企業による事業所内保育の可能性1~

地域の待機児童解消の試みとして、民間企業が担い手となる保育所が増えています。

例えば、イオンは運営する全国の大型商業施設に保育所を設け、2015年春までに首都圏の1カ所で開き、18年春をめどに46都道府県でそれぞれ1カ所以上の商業施設に民間の認可保育所を導入する計画があるようです。また、JR東日本は駅ビルや駅近くの土地を活用し沿線への保育所の誘致を積極化させたり、保険業界では第一生命保険が16年ごろまでに全国で約30カ所の保育所を開く計画をしています。

これまで事業所内保育は様々な企業で取り入れられていますが、一時は社員の子供が増えて保育所を使う子供が一定数確保できても、続かないなどの悩みも多いようです。そんな中で、事業所内保育所を上手に運営されている企業もあります。今回は、そんな企業の取り組みを紹介します。

 

m121.gif社内託児所の整備(株式会社カミテ) [1]

かみて1 [2]

 

株式会社カミテは 秋田県鹿角郡小坂町にある金型およびプレス部品を製造している会社です。 資本金4,000万円、社員30名の典型的な中小企業です。 顧客企業に高い技術力が認められ、ソニーを始め、オリンパスやキヤノンなどの関連会社が名を連ねています。 平成13年10月、「ファミリー・フレンドリー企業」として厚生労働省から表彰を受けています。 育児休業制度、介護休業制度とも、法律を上回る制度を確立し、また工場敷地内に託児所を設置して保育士2名を常駐させ、働く女性が会社と家庭を両立できるようにしています。

康弘社長が掲げている経営理念を紹介しましょう。

一、少数精鋭主義により、お客様の成長発展に貢献することを第一とする。

一、社員と会社の双方の発展、幸福を追求し、明るく楽しい職場づくりを目指す。

一、堅実と誠意を持って、地域社会の発展のために貢献することを心がける。

中小企業とは思えないほど立派な経営理念を掲げ、しかも実践していることに対して敬意を払わずにはいられません。社員を大事にする会社だからこそ、顧客の信頼を得て発展成長し続けているのです。

経営理念の中に「少数精鋭主義」というキーワードが登場します。中小企業はピーク時を想定して人員を抱えることはできません。育児休暇、介護休暇を取る人がいる中で、いかにして少数精鋭を実現するのでしょうか。そのカギは徹底した「多能工」の育成にあります。 総務、経理などの事務部門の人も現場の作業のエキスパートに育成しているのです。事務の仕事を明日に延ばしても何とかなりますが顧客への納期は延ばせません。いつでも誰でも現場の仕事を肩代わりできるのです。 「多能工」として現場作業のエキスパートになった事務部門の人たちも現場のことに精通し、現場で働く人たちの気持ちもよく理解できるでしょう。「少数精鋭」のもう一つのカギは「非定員制」です。 金型、プレス、検査、梱包・出荷などたくさんの仕事がありますが、どの仕事の量も山あり谷ありで一定していません。しかし、余裕のある人が直ぐに忙しい職場に回って支援し、一気にこなしてしまいます。 カミテには「それは私の担当外」などと言う人は一人もいないのです。

かもて2 [3]

上記の写真は、カミテチャイルドハウス(事業所内託児所)です。

「それは私の担当外」という人は一人もいないという会社風土を形成するのに一役買っているのがカミテチャイルドハウス(事業所内託児所)です。せっかく縁があって社員になってもらった人が結婚、育児、介護などのために退社してしまうのは会社にとっても大きなマイナスです。ならば働き続けもらえる制度を作ろうという考えを持てるかどうかは経営者次第です。結果としてもっとも大切な経営資源である人財の有効活用で、社員と会社の双方が幸せになれるのです。

カミテでは育児休業制度、介護休業制度を活用した人の復職率は100%です。また家族が戻ってくることを楽しみにしているかのように、その間「多能工」の人たちがカバーしあうのです。

 

m122.gif創業時より仕事と家庭の両立支援に取り組み共働き夫婦をサポート(タカヤマ金属工業株式会社) [4]

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昭和30年に樋受け金具の製造を開始したタカヤマ金属工業株式会社は、今では雨樋受け金具や住宅などの床下を支える鋼製束の製品造りにおいては全国でも圧倒的なシェアを誇る建築部品製造メーカーです。

同社が誇るもう一つの事業は、創業時より始めた事業所内保育所の運営です。保育所は同社の本社ビル内に設けられており、資格を持った保育士が常駐し、パートを含む社員の乳幼児を預けることができます。

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同社の総務部の担当者の方の話では

「子どもが1歳になるまで育児休業を取ることができますが、夫婦共働きの場合、生後6ヶ月から事業所内保育所が利用できます。このため、ほとんどの方が6ヶ月で育児休業を切り上げ、仕事に復帰されています。」

とのことです。保育料金も社員のために低料金に設定されている上、昼食時には子どもと一緒に過ごすこともできます。また近隣の幼稚園に通う子ども達は、幼稚園の送迎バスから同社前で下車し、事業所内保育所で親の迎えを待つこともできます。ひとり親や共働き家庭の子どもたちは、就学後も春・夏・冬休みなどの時期に一時的に利用することも可能です。親にとっても子どもにとっても、安心して一日が過ごせるよう柔軟な運営がなされているのです。こうして保育所設置から50年余りの間に、保育所から延べ500人を超える子どもが巣立っています。

「かつて保育所で育ったお子さんたちが、成人して当社に入社し、親子でがんばっている例も多いんですよ。」

とのことです。51年も前に事業所内に保育所を作ったのは先代社長の「働き続けるためには住居と保育施設は必要」との強い思いから始まったといいます。現在の活気あふれる社内をみても、事業所内保育所設置は先代社長の先見の明であり、その取組が会社に好循環をもたらしています。

同社では、建築部品製造メーカーという一般的には男性社員が多い印象の業界で、女性社員が平均年齢、平均勤続年数ともに上回っています。これは、事業所内保育所の利用が大きく影響していますが、社内の人間関係の良さも大きな要因であるといいます。事業所内保育所に子どもを預けることで、社員間でのコミュニケーションは仕事のことだけでなく、子育て、自身の仕事観にまでおよびます。長年の勤務が評価され、主任として活躍する女性社員の一人は

「子どもを保育所でみてもらい、安心して仕事に専念してきました。会社内では仕事のことや悩みを話せる同僚がいて、いつでも話を聞いてもらえる環境があったおかげで、仕事と子育ての両立で苦労をしたという記憶がありません。それだけでなく、さらに仕事を続けようという意欲につながりました。」

といいます。若手社員はそんな先輩社員を見ながら育っています。社員が働き続けられる環境づくりに地道に取り組んできた同社の努力が、今大きな成果をもたらしています。

 

今回の「企業による事業所内保育の事例1」では、子育てという課題を働く場(職場)に取り組んで、企業活力につなげ成果に結び付けている企業をご紹介しました。次回の「企業による事業所内保育の事例2」では、ひとつの企業という枠にとらわれず、ひとつの地域まで目を向けた企業の取り組みをご紹介したいと思います。

 

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