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これからの充足のカタチ(8)~周りが嬉しいと自分も嬉しい♪地域の活力を生み出す「まごの店」~

こんにちは

前回の記事:「うちの実家 [1]」では、「お世話する人・される人」という関係をなくし、誰もが生涯現役でいられる地域の居場所づくりの実践事例を紹介しました。

みんなで優しい気持ちをちょっとづつ出し合って、「自分たちの場を自分たちで作ってゆく」充足こそ、これからの時代にみんなが求めているものなのでしょうね

そこで今回も、周りのこと、地域のこと、ひいては社会のことを想う気持ちがうまく絡み合って、地域と若者と農業、そのすべてを活性化させている事例を見つけました♪
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それは・・・
今から11年前にオープンし、現在もいまだに行列ができるお店「まごの店」です。
料理をするのも、接客をするのも、なんと全員が高校生!
テレビドラマ「高校生レストラン」のモデルにもなったのでご存知の方も多いかもしれません。
そんな大人顔負けの高校生がバリバリ活躍する「まごの店」をご紹介しつつ、これからの充足のカタチを見つけていきたいと想います☆+゜

(1)高校生レストラン「まごの店」とは?

 三重県松阪市の南にある「多気町五桂(ごかつら)池ふるさと村」。そこに、三重県立相可高校調理クラブの高校生が、自分たち自身で料理を客に提供する店があります。
「まごの店」と名付けられたレストランは、開業日になると朝10時30分のオープン前から客が並んで順番を待つほどの盛況ぶりです。土日・祝祭日と夏・冬・春休みなど学校の休みに開業するだけですが、年間売り上げは4千万円を超えるまでになっています。

場所は決して便利の良いところではありません。バス便も余りなく、鉄道の駅からはタクシーを使うしかなく、帰りにはまた呼ばなければなりません。それにもかかわらず、県の内外から車で立ち寄るほどの評判となっており、リピーターも多い様子です。

いったい、どんな魅力が詰まっているのでしょうか? 🙄

 「四名様、八番テーブルに入りますー」
 「いらっしゃいませ!」
 案内担当の生徒が合図すると、フロア・厨房すべての生徒が、元気に声を揃えます。

 「まあ、このお店で働いているのは、全部高校生ですか。これはまたさわやかですね!」

 お客さまは、生徒たちの気持ちの良い対応に感動されたようです。
 テーブルはすでに満席で、厨房は目が回るような忙しさ。
 この店では、お客さまが席に着かれてから八分以内に必ず料理を出すことを目標にしています。それには、生徒同士の連携をしっかり取っていくことが大切です。

 「天ぷら、あがります!」
 その声と同時に、熱々の旬野菜の煮物などをセットした盆がサッと出され、みそ汁と天ぷらが盛られます。時を移さず、サービス担当の生徒がテーブルまで運びます。

 「お待たせしましたー」
 「これは美味しそう!これあなたたちが作ったの?」

 生徒は満面の笑みで答えます。 (以下略) 

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伊勢新聞出版社「高校生レストラン本日も満席」より [2]

 
高校生の元気ですがすがしい姿が伝わってきますね!
開店以来“生徒たちのきびきびとした元気な姿”“美味しいうどん”などが話題を呼び、ふるさと村への入場者数の増加とともに、地域の活性化につながっていきました。

そんな「まごの店」が今日あるのも、一人の高校教諭:村林新吾先生の熱意 があったからだそうです。

(2)「まごの店」誕生秘話

 この「まごの店」が今日あるのは、村林新吾氏という高校の先生の熱意なくして考えられないそうです。三重県立相可高校に食物調理科が設置されたのは、今から14年前の平成6年4月。そこに専門調理師教諭として、日本料理店に生まれ育った村林氏(辻調理師専門学校卒・同教師)が着任することになりました。

■三重県立相可高校食物調理科での実践リンク [3]

 食物調理科がスタートしても、実技授業時間は6時間しかなく、およそ本格的な調理を学ぶには不足している。また、当初は、資格さえ取れれば良いという考えの生徒も多く、村林氏が描いていた授業とは程遠いものであった。

 ある時村林教諭は、生徒が自主性を生かして調理を学ぶには、クラブ活動にすれば良いということに気づいた。発足の年は6名の生徒がクラブに参加してくれた。クラブといっても最初は同好会の扱いである。それでも、授業の後も調理を実習しようという意欲のある生徒が集まった。この中の一人が全国の調理コンクールに出て2位入賞を果たした。それから生徒の授業に対する態度に真剣さが増すようになった。連日放課後のクラブ活動は夜10時頃まで続くことがあり、親が迎えに来るなどの協力を得て、生徒は調理実習に打ち込んでいる。こうして、各種の料理コンクールに次々に優勝できる実力を付けるまでになった。今では、食物調理科調理師コース1年生から3年生までの60名のうち58名がクラブ員であり、ほぼ全員が参加するようになった。

■まごの店の誕生リンク [3]

 平成14年2月に、相可高校のある多気町の商工課の担当者である岸川氏から、イベントで多気町産農産物の試食会をやるに当たって、食物調理科に調理の協力を求められた。簡単な調理を当てにしていた岸川氏が、あまりの出来栄えに感心し、次に商品開発を依頼してきた。
地元の「伊勢いも」を活用するという企画だが、これまでなかなかうまくいかなかった。そこでうどんに練りこむことにして、生徒とともに試食と試作を繰り返して調整した結果、おいしい麺を作ることができた。

 こうして町の担当者と懇意になり、生徒が働きながら学べる店を作る計画を話し合うようになった。村林氏の考えは「学校では、接客とコスト管理はどうしても教えられない。経験しないと分らない。」ということである。それができるところが店なのだ。夢として語ったことを岸川氏が早速動いてくれた。
 話を持ち込んだ先が、「五桂池ふるさと村」である。

 多気町の支援を受けながらも、「ふるさと村」で、高校生の店を出すことになった。最初から自治会が了解したわけではない。食中毒の心配や、高校生に働かせて儲けるなんてできないという意見もあったので、試しに食堂でアルバイトしてもらうことにした。ところが本格的な調理技術を身につけた高校生の働きぶりに感心し、自動販売機コーナーを改修して店を作ってくれたのだ。そこは「おばあちゃんの店」の真向かいにあるので「まごの店」と命名し、平成14年10月26日にオープンした。

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 <初代「まごの店」は屋台>

 営業は、授業のある平日以外の土日、祝日と夏・冬・春休みなので、休みが全く取れなくなるという心配があったが、生徒が全員「ぜひやりたい」と言ってくれたことでスタートした。運営は、食物調理科ではなく調理クラブが行うことにし、「実店舗での研修」という扱いとした。
 高校生が店を運営するということで評判となり、味も良いので褒められもしたが、口のきき方一つでトラブルも招いた。しかし、こうした実践経験により生徒は大きく成長した。最初は、「ふるさと村」に来る人が客となっていたので雨の日には客足が遠のいたが、次第に「まごの店」自体が集客できるようになった。また、初代「まごの店」は、調理スペースの狭さ、客席が外にあることなどの問題が浮上し、本格的な店を設置しようという動きとなっていった。

 今度は、「ふるさと村」だけでできる話ではなく、多気町が建設することとなった。そこで折角高校生が運営するレストランをつくるのだから、建物の設計も高校生のコンペにしようということになり、三重県内の工業高校で建築家を目指す高校生に設計の提案を依頼した。10のコンペ作品の中から、四日市工業高校の生徒のプランが採用され、総工費約8,900万円をかけて、平成17年2月13日に新しい「まごの店」が完成した。1,914m2の敷地に376m2の建物、74の客席、厨房、研修室、ギャラリーで構成されている。

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 <コンペ作品>

建築家を夢見る高校生が設計したお店で、料理人を夢見る高校生が料理を提供する。
熱い夢が詰まったお店、それが「まごの店」だ。

「まごの店」は、相可高校・ふるさと村・多気町(産・官・学)が協働して、地域の期待や欠乏を少しずつカタチにしたお店だったのですね 😀

(3)クラブ活動にみる「これからの充足のカタチ」

 この活動は、食物調理科のクラブ活動。学校の時間外でバイト代もありません。
指導の先生も、県と町からこの事業の予算を引き出した町担当者も、土日はありません。でも活力の塊です。

営業日の前は夜遅くまで仕込み、営業日は朝早くから準備。同時にスーパーに弁当も供給しています。
店には営業時間前から長蛇の列。営業開始と同時に250食が完売。

高校生たちが一生懸命やっているのが誰にも解り、地元のお客さん(多くがお年寄り)は彼ら彼女らを見ているだけで幸せになれるそうです。

調理クラブでは、「自分たちの成果」や「応援してくれている人たちのため」だけでなく、さらに対象を広げて地域や社会の「みんなに喜んでもらうため」に頑張ることができるのですね。

また、相可高校食物調理科卒業生の就職後の退職率は以前50%もあったそうですが、「まごの店」の卒業生の退職率は5%、ほとんどゼロになったそうです。

高校生の頃から「まごの店」で地域の役割を担い、鍛えられる中で、
社会の役に立つ喜びを実感している経験はとても大きいことでしょう。
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(4)連鎖する共認充足の輪

■卒業生が安心して働ける町へリンク [4]

「まごの店」の卒業生が平成二十年九月、多気町のスーパーマーケット内に会社を起こし、おかずのテイクアウト専門店「せんぱいの店」をオープンした。同店は、高校時代に学んだ料理を基本に、食材のほぼ九割を地元産にして、安全安心な食事・おかずを提供している。

これは新しい展開である。女性の卒業生が多く、食物調理科ができて今年で十六年目。卒業生が結婚して子育て世代になった時、同じ世代同士いろいろな悩み事を話し、保育園などに子供を預けて安心して働ける職場をつくった。夕食のおかずも買って帰ることができる。

晩ご飯の追加の一品、理想としては、主食はお母さんが作りますが、後一品を店で買ってもらう。このような惣菜の店が、「せんぱいの店」のコンセプトである。

そして、新たにパワーが生まれた。それは、多気町の「老人パワー」である。町の高齢者に、野菜を切ったり、芋を炊いたりしてもらい、私の生徒には出来ないお袋の味の料理の手伝いをしてもらっている。一日五時間ほど、割烹着を着たおばあちゃんが明るく元気でおいしいおかずをつくる。若者とおばあちゃんが仲良く仕事をしている店の光景が、地域の話題になっている。

■地域の身近な見本 

「まごの店」は「高校生によるレストラン」であるため、休日だけの営業となっている。これに対し、「せんぱいの店」は、定休日以外、毎日営業している。社会人としての実践営業の場で働く先輩の姿は、現役高校生の身近な見本となっている。一方、高校生の応援団だった地域の人たちが、今では、相可高校の生徒に元気をもらっている。

このように「まごの店」「せんぱいの店」を中心とした活動が、地域を活性化させる原動力になっている。

高校生の頃から応援してくれていた地域の人たちと、社会に出てからも一緒に充足していけるとは素晴らしいですね。
学生でも、大人でも、お年寄りでも、『周りが嬉しいと自分も嬉しい。』
そんな想いがこの町には充満しているのでしょう。

>相手の期待に応えることが、自己の期待を充足してもらうことと重ね合わされ同一視されている。つまり、相手の期待に応え充足を与えることは相手に期待し充足を得ることと表裏一体である。従って、相手の期待に応えること自体が、自己の充足となる。共感の真髄は、そこにある。共感の生命は、相手(=自分)の期待に応望することによって充足を得ることである。実現論前史 [5]より

期待と応望で繋がった町の一体感がなんとも心地よく、訪れる人が後を絶たないのでしょうね^^*

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さて次回は、農業をやりたい学生が主体となって農村に働きかけてゆく「学生耕作隊」を紹介します。
お楽しみに♪

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