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『安心基盤をつくっていくには?』:医療制度はどうなる!?-3~データから見る世界の医療制度・前編(医療)~

前回記事『医療制度はどうなる!?-2~TPP参加で「医療」はこうなる!』 [1]では、TPP参加によって医療の世界にも市場原理が導入されると、どういった問題が予測されるのかについて追求してきました。

ただ、そもそも、多くの人にとって日本の医療制度は世界標準で見てどうなのか?、あるいは世界の医療制度はどうなっているのか?、TPPで強い影響力を持つアメリカの医療制度の特徴などについてほどんど知らないというのが実態ではないでしょうか?

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今回から2回に分けて、まずは日本および世界の医療や薬業界における実態を、データを通して掴んでいきたいと思います。

前編となる今回は、医療に関して世界の実態を見ていきたいと思います。

いつも応援ありがとうございます。

◆GDPに対する医療費負担の割合

まず、どれくらいの医療費をかけているかを見るために、経済規模を示すGDPに対する医療費支出を確認してみます。

<GDPに帯する医療費負担の割合>

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 日本は34カ国中24位の8.5%である。一方平均寿命は世界一であり、米国とは逆に世界一効率的な医療が行われていると一般に見なされている。

 なお、日本の場合、対GDP比のうち公的保険や財政負担に係る公的負担が6.9%である。米国、チリ、メキシコでは私的負担の割合が半分を超えている点が目立っている。
画像はコチラ [4]よりお借りしました

上記は、経済規模に対してかかっている医療費負担を比べたものですが、これを見ると日本のパフォーマンスは非常に高いことがわかります(ただし、これは医療従事者の負担になっている面もありますが)。

逆に、アメリカはデータから見れば、明らかに効率が悪いと言えます。

◆医療費と平均寿命の相関関係は?

かけた医療費に対する費用対効果という面では、医療の成果のひとつとして「平均寿命」があります。

 ちなみに、2005年のデータでは日本人の平均寿命は82.3年で、これは世界一です。日本の後には、香港、アイスランド、スイス、オーストラリアと続いています。もちろん、平均寿命だけで判断することはできませんが、医療の成果(パフォーマンス)を示すものとしては重要な指標かと思います。

<医療費と平均寿命>

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画像はコチラ [6]よりお借りしました

この相関グラフを見ても、平均寿命という指標において日本の医療成果は非常に高いことがわかります。逆に、他国に比べて目立って悪いのはアメリカだといえます。

◆医療データの国際比較~医療への市場原理の導入の結果は?~

さらに、もう少し詳しく医療の現場に関連するデータを見ていきましょう。

<医療データの国際比較>

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 表1はOECD Health Data 2011 を基本に厚生労働省がまとめたものの抜粋である。その中で人口1000人当たりの臨床医の数は日本とアメリカはほとんど同じである。

 しかし、国民一人当たりの年間受診回数は日本の13.2回に対して、アメリカは3.9回と、日本人はアメリカ人の4倍医者の診察をうけている。日本は受診料が安く、その上皆保険であるが故、他の国に比べ頻繁に医者にかかっていることがわかる。これだけの患者がありながら、図1と2で見たように、医療費総額は非常に低く抑えられている。

 アメリカでは年間受診回数が日本に比べると4分の1にすぎないのは、受診料が患者にとって高すぎるのは明らかであり、経済格差が医療格差を引き起こし、ひいては寿命があまり高くない(男性で75.4年)という結果になっている。

 一方、病院のベッド100床当たりの医師数は日本で15.7人に対して、アメリカでは79.2人、看護師の数は日本で69.4人に対して、アメリカでは実に5倍の350.8人もいる。

 アメリカの高い入院費を払える中間層以上の人々にとっては手厚い看護であり、患者の満足度は高い。私もアメリカの病院には何回かお世話になったが、看護師は朗らかだし、きれいで静かでホテル並みのところも多い。

 一方、日本では忙し過ぎる医者や看護師に支えられている現状である。3分診療とか質問に答えてくれないとか、患者の不満も多い。

画像および資料はコチラ [8]よりお借りしました

アメリカは、
「受診料が患者にとって高すぎるのは明らかであり、経済格差が医療格差を引き起こし、ひいては寿命があまり高くない(男性で75.4年)という結果」

とあるように、市場原理に委ねた結果、富裕層中心に手厚いサービスで儲かる医療を展開しているように思われます。そのため、その費用負担に耐えられない中間層以下は医療に満足にかかれないという問題点となって現れています。

日本の場合はむしろ、医療費の自己負担が安いことで診療回数は世界比では非常に高くなっています。医師・看護士数は十分に多いとは言えないため、そのことが医療現場の負担となっているようです。

◆世界各国と日本の保険・医療制度の比較

では、今まで見てきたような結果につながる根本の医療制度や考え方を主要国で比較してみます。

<主な国の医療保険制度と医療制度の比較>

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これを見ると、アメリカ以外は、ほぼ全て医療は平等や公的負担を優先していることがわかります。

そして、明らかにアメリカの医療における市場原理の導入、自己負担を前提とする医療制度は異質だといえます。ヨーロッパ諸国と比べても、ここまで徹底した市場原理の導入は際立っています。その結果が、GDP(経済規模)に見合わない医療成果や、おそらくこのデータには現れない医療現場での問題につながっているのではないでしょうか?

逆にむしろ、日本の国民皆保険という制度は非常に秀れている制度なのではないかと思われます。そのことは、このシリーズ後半でも検証していきたいと思います。

◆家計消費支出の国際比較

そして、この医療制度や考え方は国民の家計負担にも大きく影響を及ぼしています。

<家計消費支出の国際比較>

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画像はコチラ [11]よりお借りしました

(保健・医療費)
 家計消費支出の中で特徴的な違いが目立っているのは保健・医療に関する支出である。ここで保健・医療費には、医療費の他、健康グッズや市販薬、紙おむつ、メガネなどが含まれている。

 米国の医療・健康費が19.0%と際立って高くなっているのは、社会保険としての医療保険が発達しておらず、もっぱら私的医療保険に依存しているからであり、しかも医療費の対GDPが16%程度(2007年)と10%を大きく上回っている唯一の国であるため、家計に占める負担もことさらに大きいのである。住宅費を上回る支出規模となっていることからその負担感がしのばれよう。

このように、TPPが実施され、医療にもアメリカ的な市場原理が導入されていくと、多くの家庭において現在よりは医療費負担は上がってくると思われます。

◆高齢化とともに高まる医療費

最後に、今後、先進国を中心にすすんでいく高齢化という現実は変えられません。そして、現在と同じ医療を継続していくならば医療費増大の大きな要因となってしまします。

<高齢化とともに高まる医療費>

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現在、日本の国民医療費は35兆円と国民所得比9.90%(2008年度)となっており、高齢化の進展とともに実額、対GDP比ともに上昇してきている。

 線の傾きで特異なのは、極めて高い上昇が目立っている米国である。社会保険の範囲が小さく、民間保険と医療機関相互の競争など市場原理をメインとしている点で世界の中でも特異なシステムをとっている米国では、高度医療の発達や医療機器の進歩では世界一となっているが、医療費については高騰に悩まされ、マネジドケアなど数々の医療システム改革にも関わらず、貧困層への医療供給は制約されて平均寿命も先進国の中で低い状況の反面で、国民の所得の多くが医療費に注ぎ込まれているという特徴があらわれている。
 
 米英の2国を除くと日本を含め高齢化と医療費の相関では、レベルの違いはあるが、相関線の傾きにおいては、傾きの程度あるいは毎年の安定的な上昇など、ほとんど同等といえる傾向を示している点が目立っている。ただ、最近は、英米だけでなくフランスやカナダなど垂直シフトが目立ってきており、日本の良好なパフォーマンスがそれだけ目立つ状況となっている。ドイツは日本より医療費水準は大きいが高齢化との関連ではほぼ日本と平行した動きとなっている。

基本的には、各国共に高齢化の進展に伴い医療費は増大していきます。あとは、その傾きをどれだけ押さえていけるかが医療における課題だといえます。

ここでも、日本の傾きの少なさ(高齢化がすすんでいるにも関わらず医療費は低く抑えられている)は際立っています。

ここまで、主に医療費に関するデータを中心に世界や日本の医療の実態を俯瞰してみました。しかし、実は医療を考える上で、同等あるいはそれ以上に影響が大きいのが「薬」です。

次回の後編では、薬に関するデータを見ていきたいと思います。

読んでいただいてありがとうございました。

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