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『生きる力を育てる教育』~寺子屋に学ぶ教育のあり方~

先日、あるお母さんから、

「小学校の懇談会で、小学4年生になる娘のクラス担任が、授業妨害や授業放棄する子供が多数いて、思いどおり授業が進まないと嘆いていた。」

というお話を聞きました。

小学4年生(10歳)といえば、まだまだ無邪気で素直な子供と思っていたのですが、授業妨害や授業放棄が起こっているなんて、正直、衝撃を受けました。気になるので調べてみると、都市部の小中学校では、学級崩壊10校に1校の割合で起きているようです。(リンク [1]
将来の日本を担う人材を育てるのが学校教育の役割です。こんな状態では、日本の将来が心配になりますね。

今回から始まる「生きる力を育てる教育」シリーズでは、共同体社会の実現に向けて、教育のあり方をどのように変えていくべきなのか、様々な角度から可能性を模索していくことにします。

まず、第一回目の今回は、「寺子屋に学ぶ教育のあり方」と題して、江戸時代に世界でも類を見ない「主体的な勉強意欲」を生み、全国に1万5千校余りに広がった寺子屋での教育から、その可能性を模索していくことにします。

続きもよろしくお願いします

1.寺子屋とは

まずは、寺子屋がどんなものだったのかを見ていきましょう。
イメージしやすいように、現代の学校案内風その概要をまとめてみました。
(参考:「江戸時代の民間教育」(リンク [2]))

          寺子屋のご案内

(1)寺子屋の特徴
・庶民を対象とした民間の教育機関です。
・幕府や藩の援助や介入のない独立運営です。
・現役の村役人や僧侶、神官、医師、町人などが師匠を担当します。

(2)教育内容
・「読み・書き・そろばん」を中心に、地理教育、裁縫教育、農業教育など
生活に必要な実用的知識を指導します。
・基本教育習得後は、百姓のお子様には「百姓往来」、商人のお子様には
「商人往来」と相場についての本、職人のお子様には「番匠往来」など、
親の職業に合わせた教科書を用いて、お子様が将来就く職業に必要な
知識を扱います。

(3)規模
・寺子屋は全国各地に立地し、その数は1万5千~2万軒(幕末期)。「寺子屋のない町や村はない」とまで言われています。

(4)生徒数
・寺子屋一軒当たりの生徒数は推定15人~30程度で、少人数制によるきめ
細やかな指導を行います。

(5)入門年齢及び就学期間
・入門年齢:任意(早い場合5歳、通常7、8歳)
・卒業年齢:任意(通常男子12、13歳、女子13、14歳)
・就学期間:任意(通常約6ヵ年)
(※)親方職人への弟子入りや商家への奉公など、お子様が働ける
ようになるまでの就学となります。
(※)女子は、教育の仕上げと躾を兼ねて、武家か大店に女中奉公へ行く
こともあります。

 

(6)一日のスケジュール
・午前8時 :登寺子屋
・午後12時:昼食(給食は用意していません。弁当の持参もしくは自宅に
戻り食事をとるようにして下さい)
・午後2時 :下寺子屋
(※)授業時間は、師匠の自由裁量で決められることもあるのでご了承下さい。
(※)全授業に出席する必要はありません。御家庭のご都合に合わせ通って
頂くことで結構です。
また、家の用事や御稽古事の時間に帰ることも可能です。

(7)年間スケジュール
・休日は、毎月1、15、25日の定休日、五節句、年末年始(12月17日から
1月16日)となります。
(※)但し、師匠の裁量次第で自由に決められることもあるのでご了承下さい。

(8)入門料及び授業料
・ご家庭の経済状況に応じ、可能な額をお支払い下さい。

(9)貸与品
・道具類、机
・教科書(寺子屋の備品として用意しています)

(10)その他の諸費用
・筆や半紙など消耗品は各自でご用意して頂きます。
・六月の畳替え代及び暖房費(冬の炭代)をご負担して頂きます。
・盆暮れや五節句の際は、別途礼金をお納め下さい。
参考までに一般的な相場は、百文~千文程度(現代のお金に換算すると
千円~一万円程度)です。

現代の中学校総数が約1万1千校なので、規模的には現代の中学校と同程度と考えるとイメージしやすいです。師匠(先生)と生徒数のバランス入学年齢や就業期間も、ほぼ現在の小学校と同程度で、1日授業時間は現代の小学校に比べ短いですが、休日数は少なく、総授業時間は現代の小学校とさほど変わりはないようです。
こうして見ると、現代の小学校とさほど変わらないようにも思えてきますね。

2.寺子屋の成果

現代の小学校とさほど変わらないとも思える寺子屋ですが、当時の寺子屋は、世界でも類をみないほどの成果を挙げています。

なんと幕末における江戸の就学率約80%でした。当時の欧米諸国と比較すると高い数値であることがわかります。義務教育でもなく、民間で運営していることを考えると、驚異的な数値ですね。(リンク [3]

・江戸  (1850年):70~86%
・イギリス(1837年):20~25%
・フランス(1793年):1.4%(初等教育は義務教育で無料)
・モスクワ(1920年):20%

またこの結果、幕末の成人男性の識字率70%を超えていました。(リンク [4]

・江戸  :70%超
・ロンドン:20%
・パリ  :10%未満

成果を見る限り、寺子屋で学ぶ子供達はやるき満々で勉強していたようですね。

3.寺子屋は子供のやる気をどのように引き出していたのか?

切り口は多数ありますが、今回は、①当時の諸外国との比較②現代学校との比較から その理由を明らかにしていくことにします。

①諸外国との比較

上述したように、当時の江戸の就学率は、諸外国に比べ驚異的に高い数値となっています。
おそらくこの違いは、社会状況の違いが生み出したものです。

当時の欧米諸国は、奴隷制度が残存する強固な身分社会でした。それに対して江戸時代の日本は、村落共同体が残存する共同体社会でした。(リンク [5]

学歴競争の社会で育ってきた現代人の感覚では、「身分獲得という大きな目標に向かって勉強意欲も掻き立てられるので、身分社会の方が就学率が高くなるのでは?」と考えてしまいますが、この違いを見ると、実はそうではないようです。子供達にとっては「自らの私権獲得のため」よりも「集団の役に立ちたい」という思いの方が学ぶことの動機付けになるのです。

寺子屋では、村のため、藩のためという共同体意識や、同じ共同体の大人達からの期待によって、子供達の勉強意欲が高められていたのでしょう。

②現代の学校との比較

現代の学校と寺子屋の大きな違いは以下の3点です。
教えられる側の意識の違い教える側の違い、そして教える内容の違いです。

教えられる側の意識の違いは、上述したとおり、勉強の動機付けが現代の学校では「自らの私権獲得」ですが、寺子屋では「集団の役にたつ」ことが大きな動機になっています。

次に教える側の違いです。

寺子屋の師匠は、現役の村役人や、僧侶、神官、医師、町人などが、本職の仕事をする傍らで子供達を指導していたようです。別に仕事を持つ半専任で、本職の仕事に対しても尊敬の念が沸いてくるような人ばかりで、周りの大人達からも尊敬されている人達でした。
対して現代の学校の教師は、職業として教職を持つ専任の人達です。大学で教職課程を履修した上で教員免許を取り、教員採用試験に合格すれば「教師」になることができます。教師一筋何十年という人も多く、中には「世間知らず」と言われる人もいるようです。

最後に、教える内容の違いです。

寺子屋で教える内容は、生きていく上で必要な実用的知識が中心です。貧しい中での日常生活や将来の仕事に直結するため「生きていく、集団を存続させるために」ということが最大の目的となっていました。
対して、現代の学校で教える内容は、日常生活に最低必要なことは勿論ですが、最終的には、入試制度に代表されるように「自らの私権を獲得するために」ということが最大の目的となっています。

こうして現代の学校と寺子屋を比較すると、本質的な部分で大きく異なることがわかります。寺子屋ではどの側面からみても「人の役に立つ、みんなの役に立つ」ということが中心にあるので、純粋な子供にとって何の疑念もなく勉強に取り組めたのでしょう。師匠が身近な同化対象となっていたことも大きな要因ですね 😀

4.寺子屋での教育をヒントに、今後の教育のあり方を考えてみる

私権意識が衰弱した限り、今まで通りの教育をしていても子供の勉強意欲が復活することは有り得ません。寺子屋についていろいろ調べてきましたが、現代の教育に応用できるものはないか、具体的に考えてみます。

①何のために学ぶのかを明確にする
現在の学校ではこの部分がほとんど明確にされていません。大学入試のため?いい会社に入るため?私権社会の衰退を目の当たりにしている子供たちにとって、そんな目的意識では勉強意欲など湧きません。 勉強の動機付けを「自分のため→ みんなや社会のため」へと明確に変え、この目的に沿った教育内容へ変更すべきではないでしょうか。

②教師の参勤交代制
寺子屋の師匠は、現実社会の第一線で活躍する、現役バリバリの人達です。子供にとって、きっと同化対象となるハズです。教師役を一つの職業として固定するのではなく、いろんな人が教師役をすればいいんじゃないでしょうか。

③高齢者を教師として採用
経験豊富な人から物事を教わるのは大人になっても楽しいものです。週一日くらいは、高齢者からいろんなことを学ぶのもいいかもしれないですね。実際に体験されてきた歴史観を教えてもらったり、農家の高齢者の方から農法を教わったり。女子ならお料理や裁縫なんかを習ってもいいんじゃないでしょうか?今後高齢化社会がどんどん進む(リンク [6])ので、高齢者の役割創出にもなりますね。

④就学期間を見直す
現代の大学は、働くまでの猶予期間的に捉えている人が多く、中には人脈を深めるためや、働くまでの数年間羽根を伸ばすために大学に行くなど、寺子屋の師匠が聞いたら卒倒しそうな動機で大学に通う人もたくさんいます。いっそのこと、大学は、就職後働きながら通うものとするのもいいのではないでしょうか。人口減少に伴う労働人口減にも対処できそうですね(リンク [7]

今のところ思いつくのはこれくらいです。もっと良い案もあると思うので、思いついた方はコメント欄に御記入お願いします 😆

5.まとめ

共同体志向の企業が多数現れていることからもわかるように(リンク [8])現代の日本は、共同体社会に可能性を見出しつつあります。
今後の教育のあり方を考える上でも、かつて共同体社会が実現されていた江戸時代に多くのヒントが隠されているのかもしれません。

次回は、実際に寺子屋で行われていた教育内容を具体的に見ていき、今後の教育のあり方のヒントを探っていくことにします。

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