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2010年04月10日

新たな時代の教育制度の提案に向けて~イギリスの教育制度(変遷と社会的意味)~

前回の記事では、イギリスの現在の教育制度の概要を、整理しました 😀 。今回は、現在の教育制度至る歴史的変遷を整理した上で、教育制度の社会的に持つ意味について、考えてみたいと思います :tikara: 。

■教育制度の変遷
【~19C】
私立学校のみ。貴族を中心とした、上流階級のための学校。制度上は、下層階級にも進学の道が開かれていたが、ほんの一握り。
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「ニュースダイジェスト」「一橋フォーラム21」よりお借りしました)
【1870~1943】
「初等教育法」制定~公教育の開始とされる。
・産業革命による都市部への労働者流入。農村部での共同体的生活が無くなり、都市部の子供をどうするか?という問題が浮上。→公教育制度の導入。
・同時に、初等教育の義務化、無償化が確立されていく時期。

、※この時期「中等教育を全てのものに=コンプリヘンシブスクール(総合的中等学校)運動=初等~中等教育の単線化」が、労働党の運動として展開されていく。

【1944年~1965】
1944年「教育法」が労働党主導で成立。保守-労働党連立政権であったが、保守党が戦争に注力する中、労働党主導で成立したとされる。

○教育法の3つの柱
・児童の権利を尊重する人権教育の推進
・イギリス帝国主義批判の歴史教育の推進
・教師の自主性を尊重する教育行政の確立
(※イギリス帝国主義を、日本軍国主義に置き換えると、日教組の活動方針に同じ)

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(こちら)よりお借りしました)

本来の目的は、コンプリヘンシブスクールの実現であったが、連立政権下目標設定にとどまり、公立中等教育は3分岐型温存・私立学校もそのままとなる。

公立中等教育の3分岐型。
・グラマースクール:進学コース
・テクニカルコース:実践的な技術教育コース
・モダーンスクール:手に職を付けるコース
11歳の時「イレブン・プラス」と呼ばれる試験により振り分けられる。

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【1965年~1979年】(1964年~1970年・1974年~1978年労働党政権)
労働党政権は、3分岐型制度から、コンプリヘンシブスクールへの移行を強力に推し進め、単線型教育制度の基盤をつくった。しかし、私立学校はそのまま温存されている。

【1979年以降】ここから18年間保守党政権
保守党政権(サッチャー政権)のもと、1988年「教育(改革)法」制定。1944年制定の初等教育法の根本的見直しが行われた。
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「産経ニュース」よりお借りしました)
その中で、中等教育を3分岐制度に戻そうとしたが、主に中流階級の支持が得られず、断念。戦略を変え、コンプリヘンシブスクールの中に、
・アカデミッククラス:上位20%
・技術クラス:第2グループ
・職業クラス:最下位グループ
という分岐制度を組み込む事になった。

またそれまで、イギリスの教育は一貫して地方主導・教師主導。1944年「教育法」の3本柱を基盤に、教員組合の力が強大になっていた。結果、自虐的歴史観・児童の興味本意の授業構成等。また、教師の自主性にまかせた「イデオロギー教育」が横行。結果、子どもたちの学力低下・青年の活力低下・少年犯罪の増加が顕著になったと言われている。

○1988年「教育(改革)法」の概要:対象は公立学校。
・全国カリキュラムを導入し、教育を国家管理とした。コンセプトは、自虐的歴史観からの脱却と、基礎学力の定着。全国共通テストを実施しその結果を公表。学校のランキング化。
・各学校の日常的な教育内容を査察。出来の悪い学校は、廃校も。
・教員個人の能力水準の高度化に向けてのシステム作り
を行い、公立学校の教育水準底上げを、図ろうとしている。

一方で、私立学校には全国カリキュラムの導入が、義務付けされていない。依然として、公立学校とはまったく別のシステムで運営されている。唯一、16歳での中等教育終了試験であるGCSC試験のみ、受験義務がある。
中流階級は、より上位の職業=階級上位の獲得のため大学進学を目指し、その実現のため私立学校の入学を目指すことになる。結果、私立学校はますますエリート進学校化。

1997年以降、労働党政権が復活するが、どうもイギリスでは中流階級の票の奪いあいが、政権を左右するようで、労働党も保守党も中道化の流れにあるよう。最近は大きな教育制度改革なされていないよう。

という流れで、現在のイギリスの教育制度が成立した。ここで改めて、イギリスの教育制度をまとめてみましょう。

■イギリスの教育制度の社会的意味
○【私立学校系統と公立学校系統を持つ複線型】
私立学校は中世以来、貴族を中心とした上流階級のための高等教育機関。当然、多額の教育費用が必要で、高等教育が受けられること自体がステイタスであり、それが上流階級代々にわたり、与えられるシステムとなっている。
言い換えると、上流階級の安定維持を約束する体制が、複線型教育制度も含めて、社会的な制度となっている

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(-ハーロー校-「みながわのフォトギャラリー」-ケンブリッジ大学「国際圧入学会」よりお借りしました)
○【公立学校は分岐型】
初等・中等教育は、義務教育として学費は無料。初等教育は、国民の教育レベルの底上げ・国民性の維持(愛国心の維持)を基調におく教育が主流。中等教育以降、進学コース・職業コース等分岐され、高等教育(大学)進学への道も開かれているが、現実は狭き門。多数の一般庶民へは、ちゃんと仕事ができるようになるための、職業的教育が用意されている。
国民の多数である労働者が、愛国心を持ち、ちゃんと仕事をして生活できることが、国家・市場社会を支える基盤。その安定維持のための教育制度となっている。

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「Nihon Car」「英国からの便り」よりお借りしました)

イギリスでは、現在でも階級をまたいだ社会的な交流が、ほとんどない社会だそうです。当然、階級の移動もほとんど無い。
統合階級(=上流階級=資産管理が本業の資産家=金貸しのパトロン)の人たちはきっと、社会の体制をこのまま維持したい、ということが狙いなのでしょう。

国力を維持しながら、国家や市場社会体制も維持する。それを教育制度の面から支えるのが、「複線型+公教育の分岐型」という教育制度だと、見ることができそうです。

さて、このような「旧体制維持を目的とした教育制度」に、これからの社会を担っていく子供達を託して良いものなのか?

『社会統合階級の犯罪性~100年も前から何も考えてない!?(@o@;』
『「自分の私権のことしか考えていない」のに、“社会統合階級”という身分が手に入る欺瞞』

これらは、るいネットにある記事です。これらの記事も参考に、また、他の国や日本の状況もふまえ、今後の教育制度のあり方を、考えていきましょう。

投稿者 hajime : 2010年04月10日 List   

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コメント

またまた超大作☆ありがとうございます☆
今回も気になる内容がもりだくさんですね!

>農村部での共同体的生活が無くなり、都市部の子供をどうするか?という問題が浮上。→公教育制度の導入。<

とか、そうだったんだーって感じだし、

>(※イギリス帝国主義を、日本軍国主義に置き換えると、日教組の活動方針に同じ)<

とか、

>11歳の時「イレブン・プラス」と呼ばれる試験により振り分けられる。<

なんかも、そんなに早く(*O*)とおどろきでした。

1988年「教育(改革)法」の公立学校の教育水準底上げも、どういった中身なのか気になるところです。

あとは、多数の一般庶民への、ちゃんと仕事ができるようになるための、職業的教育って?とか。日本の工業高校なんかと同じイメージでしょうか?

でも、なんだかんだといってどこの国も同じような課題を抱えているのだなという気は読んでてしました。

ありがとうございました♪

投稿者 たてこ : 2010年4月13日 02:39

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