日本の家計貯蓄率は、かつて1970年代半ばには25%近くまで上昇し、先進国の中でダントツの貯蓄率でしたが、最近、大きく低下してきているようです。
貯蓄率を規定する要因については諸説あるようですが、歴史を振り返りながら家庭における貯蓄とは何だったのかを考えてみたいと思います。
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1970年代には20%台に達し、80年代以降も10%台を維持していた日本の家計貯蓄率は2003年以降3%台のレベルまで急激に落ち込んできています。日本人は貯蓄好きの国民などと言われたこともあったようですが、数字を見る限りはそうではなくなっているようです。
かつての高貯蓄率については以下のような要因があったと言われています。(リンク [1])
なぜ日本人は貯蓄を好むのか?
低金利にもかかわらず、銀行や郵便局のようなローリスク・ローリターンという性質をもつ金融資産を好む傾向があり、日本の貯蓄率は極めて高い水準を維持してきた。
日本人の「国民性」のせい?●ライフサイクル仮説
若い時から死ぬまで一生涯のことを考えて、消費行動を決定する。
高齢化によって、貯蓄率が低くなる可能性。●ダイナスティ仮説
家計は、王朝(ダイナスティ)を形成するかのように行動し、子供に資産を残すことを念頭に貯蓄行動をとる。
孫に小遣いをやって、慕われたい。いつまでも王様のようにふるまいたい。
高齢化による貯蓄率の低下の可能性は小さい。●社会保障制度の不備
日本では社会保障制度が未発達のため、将来に対して個別に資産を残しておく必要がある。年金への不信感、高齢化社会への不安などによって増幅。
上記のほかに、「貯蓄は美徳」という伝統的な倹約精神があったと言われています。
一方、最近の貯蓄率低下については以下のような原因が挙げられています。
●賃金やボーナスが伸び悩んだ上に、高齢化が進んで貯蓄を取り崩して生活費に充てる老人世帯が増えているため。
●団塊世代の大量退職が07年から始まるため、家計貯蓄率はさらに低下する可能性がある。
直感的にはこのような分析になると思いますが、もう少し長い歴史を見た上で考えてみたいと思います。
庶民が「貯蓄」をするようになった明治以降の経緯を見ると以下のようなポイントが挙げられます。
<(リンク [2])より抜粋・引用>
●明治以降の家計貯蓄率の推移をみると、10%を上回る水準が定着したのは、戦争前後の混乱期を除けば、1950 年代以降に過ぎない。
●戦後になって家計貯蓄率の上昇が続いたのは、経済復興期から高度経済成長の時代。
家計貯蓄率がピークに達するのは1970 年代半ばの第一次オイルショック期。
経済成長率自体はもはや低下傾向にあったが、オイルショックによるインフレの昂進で将来に対する不確実性が高まり、予備的な動機から貯蓄率が一時的に上昇したものと考えられている。そして、インフレの鎮静化に伴って家計貯蓄率は下落へと転じた。
<(リンク [3])より抜粋・引用>
●高度成長期には、所得・消費がともに上昇したが、所得の伸びが消費の伸びを上回ったため、家計貯蓄率は上昇した。
●オイルショック後から戦後2 回目のマイナス成長となった1998年までの時期も所得・消費はともに上昇したが、消費の伸びが所得の伸びを上回ったため、家計貯蓄率は低下した。
●我が国が深刻な不況を経験した「失われた10年」の後半期では、所得が減少に転じたことで、家計貯蓄率は低下した。
●明治から昭和初期の頃まで、庶民に貧困の圧力が強くかかっていた時期は貯蓄の意思はあったとしてもその余力が無かった時代でした。
●1955年以降の高度成長期は1975年頃のピークに向かって右肩上がりに貯蓄率が上昇し、以降は右肩下がりで低下してきました。
・1970年代前半の頃までは、家庭にとって欲しいものが次々と登場した時期ですが、貯蓄に回せる余力が徐々に広がっていった結果が貯蓄率の上昇に反映されていたと見ることができます。
・1970年代半ば以降、右肩下がりの傾向に変わったのは、家計の所得と消費の関係が変化していったことと、高齢化の進行によるところが大きいとみなせます。
・貧困が消滅した1970年代以降は家庭にモノがあふれ、買わなければならないモノが無くなってきた時代です。しかし、消費支出の伸びが、停滞しはじめた所得の伸びを上回り貯蓄率は減少しました。モノの消費に代わり、住宅ローンや教育支出・サービス消費のウェイトが高まっていました。
・加えて、貯蓄が一定程度蓄積されるとそれ以上積み上げる必要が無くなるということも背景にあると思われます。実際、蓄積されている貯蓄高は減っていません。
●貧困が消滅した以降、家庭の貯蓄とは必要な支出をした残りでしかなかったと言えるのではないでしょうか。
・家庭との関係で見れば、核家族が主流になり、家庭が消費するためだけの場になったことと、子や孫のために蓄財して残すという意識も少なくなってきていることは消費を促す要因になっていると考えられます。
しかし、もはや欲しいモノがなくなってきている。
だから、企業に利益が蓄積し、家計の貯蓄の余力が少なくなってきても、さして問題視されないでいるのではないでしょうか。
今後、必要なものだけを生産し、必要な分だけ消費するという社会に向かってゆくことを示唆しているのかもしれません。
by わっと